第9話 襲撃しよう

 いくつか運ばれてきた簀巻きは集落の中心の広場らしいところで荷ほどきされていた、簀巻きが解かれても逃げないようにロープで縛ってある、結構知能高いな、あいつらの装備皮製品やら金属機有るけど自分達で使ってるのか?そうだったら下手に手を出すと死ぬな、罠の設置までする奴だったら俺だけだと死ぬ、あいつら夜行性なのか昼行性なのかなのかもわからんけど、罠鑑定も夜やると死ぬし、安全第一では時間と人手が足りん、そんな事を考えているうちに荷ほどきが終わったらしい、男二人に女一人、遠目だが骨格で何となくの判別である、男をひっくり返して吊るして、あ。


「見ない方がいいぞ。」


 そう言って目をふさごうと抱き着いたところで吊るされた男は首を斬られた、あれは効率よく美味しく血抜きする方法だ、男は純粋に食料とされるらしい、バケツのようなもので血を受けてその血を飲んでいる、アフリカの原住民が家畜殺す時の流れだ・・・、効率よくあっという間に腑分けされていく、男二人はあっという間に肉にされてしまった、女は一人そのまま残されている、だがこれ、次があるパターンだ・・、そんなことを考えついてしまったところで実際に一回りでかいのが出てきた、どうするのかと思ったら女を担いで比較的大きい建物に引っ込んだ、そこは効率よく輪姦じゃないのかと安心しつつ、この集落壊滅させる算段を考え始めた、目をふさぎ損ねた灯はそのまま見てしまったらしく又固まっている。


「あれ、皆殺しで良いんだよな?」


 灯はびくりとこちらを振り返りかくかくと頷いた。




 石を投げて茂みの中に誘い込んで少しずつ数を削る。獲物は最初に拾ったこん棒と靴で十分らしい、敵の数は上から見た分で60匹ぐらいか、ある程度、半分以上削れたら嬉しいが、金属製品や服のような端切れも補充できる、自前のナイフもこれなら今回はぎ取った分で代替わりできそうだが、ナイフというよりは鉈のような鈍らばっかりだった、それでも無いよりはいいし、問題なく使える、あの人斬ってたナイフは切れそうなのだが、10匹ほどつぶしたしたところで見回りが来なくなった、あんまり減らなかったか。


 火おこしをして端切れと獣油を混ぜて巻き付けて松明を作る、昼間から火責めは効果が薄いかもしれないが、集落の周辺に移動しながら適当にばらまいて歩く、燃え広がってきたのを確認しつつ、例の大きい建物に乗り込む、お楽しみ中だった・・例のでかいのよりさらにでかいのが腰を振っている、そんなものに気を取られた所で横から攻撃が飛んできた、こいつはホブゴブリンであっちはキングと言った所か、ファーストアタック取られたのが痛いな、二匹同時に来られても困るので逃げる、大分燃え広がったのかさっき出てこなかった奴らがぎゃーぎゃーと騒いでいる、おかげでこっちが囲まれない、扉から出たところで振り向きざまに首元に鉈を叩き込む、ホブは即死はしなかったようなのでもう一度振りかぶって叩き込むと動かなくなった、これでこの中に居るのはあのキングだけだか、覗き込もうとしたところで槍が出てきた、思わず仰け反ってかわす、後ろに下がって逃げたところで追いかけるように出てきた、太陽の下でキングの体がはっきりと見える、身長は2m強、ホブは1.5m程度で、通常は1m程度の小人だが、これは固そうだ・・攻略手順を考えてげんなりする、ぶおんと横なぎに槍が振るわれた、咄嗟に下がって距離を取ろうとしたところでキングの槍が伸びた。咄嗟に鉈で受け止める、ってこいつ槍術できるのか、振っている最中に手を緩めると遠心力で持ち手の位置がずれて当たり判定が伸びるのだ、距離取ると更に伸びかねないので、懐に踏み込まないと余計に不味い、左手にナイフも構え、キングが槍を振りきった動作に合わせて懐に飛び込む、キングの口角が上がった気がした、槍を手放して掴みにかかってくる、咄嗟に左手のナイフでキングの脇腹を引っ掻きつつ横を抜ける、浅い・・・皮一枚、相手の筋肉が多すぎてナイフが入らない、毒にイチイの種塗っておいたけど、効くのかな?


 相手は槍を悠々と持ち直して構えた、こっちからの追撃も問題ないということだろう、これはちょっときつそうな・・




 相手の攻撃を鉈でそらしつつ左のナイフで浅く傷をつけるのを繰り返す、暫くすると相手も焦れてきたようだ、動きも雑になってきている、だからと言って懐に飛び込むと掴まれて死にそうだし、このまま長引くと今は混乱しているが戻ってきた小さい奴らに囲まれかねない、この毒はそこまで即効性は無いので一旦逃げよう、そんなことを考えているうちに大ぶりな攻撃の隙間で体勢が崩れ顔のラインが開いた、咄嗟に目玉にナイフを突き刺して離脱する、ぎゃあとキングが悲鳴を上げる、槍を落とし無くした目玉を抑えてうずくまる、こうなると意外と追撃しにくいが、キングが落としていた槍を拾い無防備な首にたたきつけた、ぎゃあという様子で背筋が伸びる、上がった顔の残った目玉めがけて槍を突き刺す、打ち漏らすと追いかけてきそうなので念入りに脳の中をかき混ぜるようにぐるりと回す、ビクンと一瞬跳ねて動かなくなった、止め刺し完了・・・。刺さった槍を引き抜いてぐるりと回して血糊を飛ばす、持った時にはちょっと重かったが慣れたのか大した重さを感じない、さて、残り物をどうにかするか・・・視界の端に居たゴブリンを追いかけはじめた。




 視界に見える分は大体潰したが、最初に見た分より大分少ない、森の中に逃げられたか、こうなると追撃は無理だ。早々に追撃を諦め、空いている家に入って物を物色する、金属製の鍋ゲット、刃物類もある程度補充できたのでこれで生活には困らない。さて、ここで一夜明かすと多分帰ってきたやつらに寝込み襲われるな、逃げるか。






 集落から離脱して森の中に入り呼び出すと灯が出てきた。


「無事?」


「どうにか・・・」


 横にはさっきの少女が灯の肩を借りて立っている、立っているのも辛そうだ。


「それならよかった、ちょい逃げるぞ。」


 そう言って少女を背負って走り出す、灯はそのまま走ってもらう、しばらく走ったところでやっと一息ついた、灯も立ち止まり、俺も少女を下ろしてため息をつく。


「ここまでくれば多少は安心か?」


 お互いゼイゼイと息が上がっている、人一人担いで走るのはさすがに疲れた、逃げ道途中で荷物も無事回収できた、気が付くともう暗い時間だ、これ以上は移動できないのでツェルトと焚火を作って夕食を食べる、狼の肉はまだあったので大丈夫だ、ビタミンのことはこの際気にしない。


「はいどうぞ。」


 串に刺して焼いた肉を渡す、自分でも先に一口食べて見せる、毒物ではないというアピールだ、少女は食欲なさそうに小さく齧っていたが、段々と食が進んでいく、食べ終えたのか落ち着くとボロボロと泣き出した、まあそんなもんだろう。


 俺と灯は顔を見合わせて苦笑して、自分の分も食い終えて、少女が泣き止むのを待った。

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