第161話 クリスの要求

「キスも、下さい・・・」

 安心しきって居るのか、変な要求が口を付いて出て来た。

 その要求に答える様に、優しく唇が重なった。

 最初は優しく、ちょんちょんと触れる、最初はびくびくと身構えて居たのだが、何故か楽しくなって来た、自分の広角も上がって来ているのを自覚する、もっともっとと無言で要求すると、段々と長い時間重ねるようになる、唇を唇だけではむはむと甘噛みされる、此方もと、はむはむと動かしてみる、何だか楽しい。


 暫くそんな事を続けて気が付くと、結構長い時間が立って居た、色々と貪り過ぎた、夜明けぐらいだった筈なのに、太陽が大分登ってしまっている。

 お仕事?!

 今頃思い出した、急いで着替えて、御飯の準備をして、あの子達のおむつを替えて、お掃除お洗濯をして・・・

 何より、未だご飯を食べて居ない!

 その思考に答える様に、お腹が空腹を訴えて動き出す。

 先程まで良く分からない寂しさに泣きそうに成って居たと言うのに、何かが満たされたのか、頭の中がすっきり動き出す。


 突然身を起こし、着替え出した私の事を、和尚さんは、只安心したような優しい目で見て居てくれる。

「急いで御飯の準備をしますから!」

 そう言って、着替えを終え、部屋を出た。

 私の一言に対して、和尚さんは、只にっこりと笑みを浮かべて、小さく手を振ってくれた。

 さてと、今日は何を作りましょう?


 和尚視点

「思ったより、早目に立ち直ってくれました?」

 クリスが元気良く出て行き、此方も起きるかと着替え始めた所で、灯がひょっこりと様子を見に来た。

「結構元気に成ったと思う、長期戦じゃ無かったのか?」

「女心と秋の空って奴です、誰も予想できません。」

 灯の予想は外れたが、特に悪びれた様子も無く話す。

 実際問題、何の不都合も無いので、批難する必要は無い。

 早目に立ち直ってくれたことを喜びこそすれ、予想通りに長期戦に成った場合に得する要素が無いのだ。

「後は、どうなるかな?」

「素直に幸せにしてあげれば良いんです、先ずは指輪か割っか的な物で所有権主張してあげると喜びますよ?」

「そんな意味合いで良いのか?」

「大体そんな意味ですし、御呪(おまじな)いで、呪(のろ)い見たいなもんですし、漢字表記じゃルビ振らないと意味が解りません。」

 向こうの教会で上げる結婚式も、祝福と言うより呪いのような意味が強いと言うネタも有るので納得では有るのだが。しかし灯、女子高生がそのネタを言うと言う事は、向こうでは大分ひねくれて居たらしい。

「後で指輪用意するか・・・」

「はい、観念して責任取ってあげて下さい。」

 灯が得意気に話す。

「しかし、嫁4人は多くないか?」

「甲斐性有るならいっぱい貰うのは問題無いです。」

 エリスがちゃっかり混ざって来た。

「財政的には?」

「かなり余裕ですのでご安心を。」

 何の心配も無いと言う様子でエリスが答える。

 結局このメンバーの財布はエリスが握って居る、俺と灯は未だに相場観が無いので結構な生命線である。

 アカデさんの研究費用や纏まった時に出す本の出版費用の諸々(もろもろ)が結構多きかったりする様だが、大体ギルドから補助金を貰って居るし、事有る毎に更新する羽目になる冒険者の武器防具の類よりは安いので、特に問題は無い。

「そもそもこの世界、何だかんだで死亡率高いので、嫁とれるだけ取って、産めるだけ産んで置け見たいな風潮ですし、私達も、ご近所さんから2人目どうするとか言われてます。」

 この間生まれたばかりだと言うのに気が早い気がする、そもそも授乳期間中はホルモンバランス的に出来難いと言われていた筈だが。

 下手に子宝系ご利益が有るお経とか上げると、其れ無視して出来そうなのでちょっと怖かったりもする。

 結局避妊も何も無しでヤルことはやって居るので、そのうち子供は増えるのだろうが。

 子供は授かりものでも有るので、出来る時は出来ると言う感覚で、覚悟だけはしておこう。

「まあ、お陰で教会に収めた鬼子母神(きしもじん)の木仏は結構人気みたいですよ?」

「こっちでもちゃんとご利益あったか?」

 教会に預けるだけ預けてほったらかしで有る。

「子供の守護神で、子宝も授かるって言う名目で井戸端会議で流したら、結構評判になりまして、奥様方にお参りされてるようですよ?」

 冒険者の噂話では流れて居ないので、其処等辺は奥様ネットワークと言う物なのだろう。

「其れは何より・・・」

 宗教侵略はじわじわと、即物的に順調らしい。

「さて、御飯行きましょう。」

「はいよ。」

「はーい。」


 朝食の準備中で、台所をくるくると駆け回るクリスは、傍から見ても、鼻歌でも歌いそうな上機嫌だった、昨日と今朝のあの沈み具合はすっかり成りを潜めたようで何よりだ。


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