第250話 仏像
「おや、薬師如来だ」
何時ものように自室で木仏を掘っていたところ、薬師如来が出来上がった。しつこいようだが自分は木仏を掘る際、出来上がりのイメージも何も無しで掘り出している、何が出来上がるかは其れこそ神のみぞ知る、この場合は仏なのだろうが。
因みに薬師如来の見分け方は、右手の手のひらを前に向ける施無畏(せむい)印、左手を上に向けて水平にする与願印(よがんいん)とし、左手に薬壺(やっこ)を乗せているのが目印だ。
「そして、アカデさんなんだな」
確かに薬品製造の際、やたらと的確に薬効を特定、固定している、薬師如来が加護に付いているのなら納得である、確かに鬼子母神よりあの人らしい感はある。
「何気に位が高いな?」
如来は最高位だ、更に言うと、自分だったらしい大自在天(だいじざいてん)は、天部の仏、仏としては下位だったりするが、まああまり気にすることでもない、何故か『さん』が取れないのもこのせいかもしれないなと、変な所で納得する
「そしてガルーダも付きか、あーさんもセットで・・・」
ガルーダは所謂(いわゆる)巨大怪鳥、仏を乗せて三千世界所か三千宇宙を飛び回るというありがたい鳥である。
そんな役割の巨大な鳥が一緒に居る、更に肩に蛇と足元に孔雀、蜘蛛やら何やらがセットな当たり・・・・・
「これ、EXか? あーさんはガルーダ枠でここに居るんだから、孔雀が別だとすると、孔雀明王(くじゃくみょうおう)?」
孔雀明王は、憤怒の相が多い明王の中において、顔つきが数少ない穏やか枠だ、孔雀は毒が効かない、鳴き声で魔を払いつつ、魔を食らうと言われる数々の民間伝承に寄り、状態異常耐性がやたらと高い。
一般的に孔雀に乗っている明王なら孔雀明王という感じの解りやすい分類分けだが、今回孔雀に乗っかっているのは蜘蛛だ。
「顔と手足の本数はあってるか?」
孔雀明王は顔が一つで、手が6本だ、足を足せば8本と言うことで蜘蛛でいい気もしてくる。酷いこじつけだが。
「最早何でもありだな」
段々突っ込みにも飽きてきた。
「まあ、ロボだから毒が効かないのも合ってるのか」
謎ロボが出世した物である。
次の一体が彫り上がり、出来上がりをまじまじと観察する。
「そして、クリスは愛染明王に成るのか」
そりゃ重いと、続く一言を飲みこむ。
恋愛・縁結び・家庭円満を担当する明王だ。
愛染明王の見分け方だが、色が付いていれば赤い時点で即答されるが、今回は未だ無彩色、この場合、頭の上に獅子(しし)の冠と、足下に宝瓶の上に咲いた蓮の華の上に座り、目が三つで、手が6本、キューピットの弓矢を持っているのが特徴で、特徴が多すぎて渋滞を起こしている。
そもそも弓矢持っている時点でほぼ確定であるが。
この木仏に関しては手が普通の二本しかないから、受け入れやすいように自重と言うか歩み寄り、ローカライズはしているらしい。
ドロドロの愛欲であっても肯定して昇華するという、仏でも珍しい権能なので、水商売なんかの守護神扱いされている。
「まあ、ぴったり?」
納得するしかなかった。
「で、ぬーさん?」
何で?
と言う感じに首をかしげる。
巨大な虎っぽい何かと、何故か抱え込まれて、喰われそうに成っているような仏が自分っぽい。しつこく蛇も巻き付いていた。
「EX、ムチリンダ枠にも成るのか?」
ムチリンダは仏陀の守護聖獣の類いな大蛇である。
「涅槃仏じゃないだけマシかな?」
といった感じに納得することにする。
この間比喩無しに死にかけてたし、教祖であるゴーダマ・シッダルタは毒茸にあたって死亡しているので、毒系には弱いらしい。
「装飾ないから、釈迦如来(しゃかにょらい)?」
出世した?
「虎にかじられそうな仏っていうと、捨身飼虎(しゃしんしこ)の図か、アレは前世だろうに」
無意識の産物で、仏の導きの類いだろうが、色々謎である。
「後で教会にでも押しつけよう」
行き先自体は決定済みであった。
色々出来上がって気が済んだので、コレで終わりと伸びをして、コリを解すために全身を動かす。
「ぎゃああああ」
少し遠くで何とも言えない、聞き覚えのない男の叫び声が響いていた。
追伸
前回のヒ素騒ぎに繋がりました。
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