第233話 続・舞台裏
「そもそも何でこんなに安いんですか此処の麦……」
アグリカ領、領主の館の執務室で思わず呟いた、最近の書類はある程度処理できているので、変なことに成っている決算書類に手を出してみたが、そうとしか言えない。
収穫高は悪くない、周囲の麦の店頭相場もそんなに安くない、商人が輸送の手間賃と儲けを乗せたにしてもこれは極端だ。
「古い記録を探したいんですけど……」
古くから居て、粛清から外れていて、詳しそうなメイドを一人捕まえて、書類整理を手伝わせようとしてみたが、盛大に躓いた。
「すいません、私達学が無い物で……」
「誰も文字すら読めないとか、今時教育水準が低過ぎませんか……」
どうやら、外で潰しのきくような学の有る人材を嫌って今一なのを集めていたのか。
そして、学のあるのは大体連座で処理に巻き込まれて全員居なくなったと、この国の一般的な識字率は半分位なので比率としてはおかしくない。
教育をしなくても口伝で行けるし、外に行けない人材なら安く使えると言う事で、色々小賢しく節約していた可能性もある。
ついでにこの位の歳まで働かせて文字が読めない状態では、追い出されたとしても余り良い仕事にも就けないので、放り出すにも気の毒だしで、屋敷の使用人達は一先ずそのまま雇っている。
「下手すると最近までの領主が文字読めない程度とかの可能性すら出てきますね?」
学の無い者が、そう言った物を嫌っていた可能性も捨てきれない。
「それだと、領主が被害者の可能性も有りますけど、そんなもん今更ですし」
いざという時に首を取られる迄が領主の仕事である、奇麗事では無いのだ。
もう居ない人員に思いを馳せても役には立たないのだ、諦めて今の仕事をどうにかしよう。
適当な情報通のメイドを捕まえて、屋敷の内情を聞きつつ、書類仕事を再開した。
「これが現状の中間報告です」
ダモクレスが各地の状況の報告書を持ってくる、なんで上司であるこの人が駆け回っているのかというと、実は移動速度が異様に速いのだ。馬と馬車がその昔、王から下賜された特別な物で、通常の馬車では馬が潰れ、馬車本体が壊れるような速度で移動できるのだ、ただし、真価を示せるのはダモクレス本人しか居ない。そのせいもあって、書状の伝達のような些事もこの人が一手に引き受けている。
そして、そのせいもあって不意打ち気味に、神出鬼没に現れるので、ターゲットとされた貴族の類いは気が気では無いことだろう。
報告書にざっと目を通す。
各地の防疫状態は中々酷いが、一箇所だけ異様に死者数が少ない場合が有った。どうやら、コレが例の次期領主様が活躍して居る所らしい。
報告書の中に、研究者の中間報告らしい物が混じっていた。
土の中に居る小さな生き物、放線菌を利用した特効薬を作成中?
この間、論文が発表された鉛中毒を緩和する薬品の作り方から派生する物か。同時に発表された顕微鏡によって、目に見えないような小さな生き物達が存在すると発表され、大騒ぎに成ったが、未だ応用した論文は下火の筈だが・・・・・・
読んでみると文体の癖が同じだった、どうやらコレを書いたのは同一人物というか・・・・・・
急いで読み飛ばし、一番後ろにある署名を確認する。
「なんでこんな所に居るんですかアカデ先輩?」
誰も居ないのに思わず呟いた。
追伸
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