第258話 子供達の有る日
「今日は何釣れるかなー?」
先程捕まえたでっかいイモムシを釣り針に刺して池の中に投げ込んだ。
ぼちゃん
優しく着水させたとは言えない感じの水音が響き。波紋が広がった。
「ヒカリ姉のは、流石に餌が大き過ぎない?」
イリスが呆れ気味に見ながら、自分の小さな釣り針には同じく小さなドングリムシを刺して投げ込んでいる。
ぽちゃ
私の時の水音に比べると無音に近い感じに着水させている。
「だって、大物の方が美味しいじゃん?」
でっかいサラマンダーなんて釣って帰ると母が喜ぶのだ。
「釣れなきゃ意味ないよ」
妹、イリスはこちらの言葉に対して呆れ気味に呟きつつ、目を細めて竿の先、水面に沈んだ糸を見る。
「んっ?」
イリスがピッっと竿を立てると、糸の先には私の手のひらぐらいの小さな魚がぶら下がっていた。
「ほら、ボウズ回避」
気持ち得意気にイリスが報告する。
イリスは迷うこと無く針から魚を外して、水を張ったバケツに放り込む、餌は残っていたらしく、そのまま水面に投げ込んだ。
「おめでと」
確かに釣りに来てボウズは悲しいので、イリスの言葉はもっともだ、だけれど。
「ヒカリ姉も小さい方が良いんじゃない? そもそも、この池、そんなでっかい魚が居る?」
イリスは半信半疑の様子だ、こう言う時、妹のイリスは安全策を選ぶので、こう言う時に若干衝突しがちだ。
「でっかい方がお腹いっぱいになる」
いつものご飯が少ない訳でも無いが、少し多いと嬉しいのだ。
「気持ちは分かるけどね?」
若干呆れ気味にだが、イリスが同意してくる、いくら食べてもお腹がすくのは同意らしい。
お家の周りで遊んでいる分にはおやつも出るのだが、少し遠くで遊びたいのも有るので、今日は少し遠くで遊びたい気分だったのだ。
そんな訳で私、ヒカリと、妹のイリス、ペットというか保護者役らしいぬーさんと一緒に山の中腹に有る大きめの池で釣りをしている。
因みにぬーさんは付いてきてくれるのだが、あまり興味は無いと言う様子でアクビをしつつ寝ている。
ばちゃん
視界の外で大きな音が立ち、波紋が広がる、音からして結構な大物だから、居ないわけでも無いはずだ。
おやつ代わりに餌のイモムシと一緒に採ってきたドドメ色の木の実を口の中に放り込みつつ、竿の先、糸の先、水面を睨む。
「よしっと」
イリスがピッと竿を立てる、上げた釣り針には先程と同じぐらいの小魚が付いていた、イリスは慣れた手つきで魚を外し、バケツに入れる。
今度は針に付いていた餌が無くなってしまったらしく、穴が開いたドングリを割って、中に居た小さなドングリムシを取り出し、針に付け直す。
小さい魚だけど、数が居ればソレなりに美味しくいただける、塩焼きだろうか、贅沢に油で揚げるのだろうか?
何だかんだ獲物を持って帰ると、夕食とかが若干豊かになるので死活問題なのだが。
「ヒカリ姉もいい加減小さいので・・・・・・?」
「うーるーさーいー」
おどけつつ強がり、若干拗ね気味に返す。
「はいはい」
しょうが無いなあと言う感じにイリスが引き下がる。
ソレはそうとと、先程からピクリともしない竿先を睨んだ。
『釣りは良いぞ? 釣れると楽しい』
そんな父の言葉を思い出す。
『釣れないのは?』
昔釣れなくて拗ねたときの問答だ。
『釣れないのも含めてだから、どれだけ準備しても釣れないときは釣れない』
『ボウズじゃん!」
『ボウズだからな』
ワハハと笑われた。
『世の中そんなもんだから、上手くいかないのさ』
その日は釣れないというのに何故か得意気だった。
『うー』
『人事を尽くして天命を待っても、最後は運と縁だから、失敗しても気にしない』
若干遠い目をして、難しいことを言っていた気もするが、よく分からなかった。
と言うか、そんな事を言いながら、あの父は平民からちゃっかり貴族に出世している類いなので、失敗してもとか釣れなくても何て言葉が説得力が無かった気がする。
「そんな訳でー?」
余計なことを考えて、頭の中にあった獲物に対する殺気を中和しつつ、ぼんやりと竿先を見た。
こちらがこんな事をしている内に、イリスが次々と釣っているのは気にしない。
ピク・・・・・・
「ん?」
小さく震えた気がした。
ピク・・・・・・
又動いた、大丈夫かどうか触ってる?
グンッ
「き?」
グググググ!
「きったあ!」
思わず叫んで竿を立てた。
竿が早くも目一杯曲がった。
「騒ぎすぎ」
イリスが過ごし呆れ気味に、こちらを見る。
ガクガクガク
変な感触が有ったと思ったら、更に竿が曲がった。魚のアタリでは無い。
「ちょっと助けて?」
上がらなそうな予感と感触が有る、と言うか重い。
「地面でも釣った?」
イリスが半信半疑と言う様子でこっちの後ろに回って、背中の辺りからしがみついてくれる。
「動いてる、岩とかじゃ無い」
糸が切れるか、竿が折れるかと言う問題は有るが、私達のはEXに作らせた特注だ、竿は特殊なカーボンで、糸もカーボンナノチューブだとか言っていた、特別頑丈な奴だ、早々壊れるモノじゃ無い、後は私達が上げられるかどうかだ。
イリスと二人がかりなので、そうそう負けないハズ。
ず・・・・・・
ずずずずずっ!
引きずられている、なんだコレ?
ばしゃん!
糸の先、水面で水しぶきが上がった、魚にしてはやたらと大きいと言うか、一瞬だが長くて角張った異様な尻尾が見えた気がする。
「何アレ?!」
思わず叫んだ。
「でっかい?!」
イリスの叫びも驚いているだけで要領を得ない。
そのとき、薄暗い池に、一瞬日が差して、水面の下の陰が一瞬だが見えた気がする。
「「怖?!」」
異様に大きな影を見てしまってパニックになる。
イリスと同じ事を言っているので怖そうな物で間違いないのだろう。
「怖い怖い!」
水の中に引きずり込まれたら絶対負ける?! 寧ろ喰われる?!
それぐらい大きく見えた。
「怖いけど陸に上げれば?!」
水の中なら怖くても、陸に上げれば怖くない、そんな事を言った瞬間、大きく頭を振られたのか、グンと引きずられた。
「あ?」
思わず変な声が出た。
「きゃああああああ」
イリスも叫ぶ、一瞬引きずられて身体が倒れて、宙に浮く。
浮かんだ瞬間にも引きずられて水面に・・・・・・
がくん
「?」
背中を捕まれたように空中で動きが止まった。
「がる・・・・・・」
背中に散々触れてきた巨大な毛玉の気配が有る。
「ぬーさん?」
「がる」
口で服を咥えて救助してくれたらしく、喉の奥で唸って返事をしてくれる。
そのまま纏めて引きずられる、竿をしっかり握りしめたままだったことは褒めて欲しい所だ。
私とイリスの二人ががりでも上がらなかった獲物が、ぬーさんとの力比べに負けて渋々上がって来た。
その獲物は、最後は歩いて上がってきた。
ソレは巨大なワニだった。
上がってきたが、力比べに負けたからと言うことを忘れてなのか、こちらを見て走り出した、私達が良い餌と認識したらしい、水生生物の癖に、私達より速かった。
一瞬で私の目の前に大きな口が迫って来て・・・・・・
ガリ
ゴリ
バキン
その動きより、ぬーさんの方が速かった、やたらと堅そうな音が響いて、ワニが力尽きたように動きを止めた。
ぬーさんが的確にワニの頭、頭蓋骨をかみ砕いていた。
追伸
この二人は何だかんだ欠食児童なので、異様な運動量も有って、いくら食べても食べ足りない時期です。
でもやっぱり子供ですので、肉食獣の殺気相手にして適切に立ち回るには無理があると言うことで、この頃はこんな感じです。
EXの干渉はよっぽどの時なのと、戦力的にぬーさんだけで戦力過剰と見ているのもあって、やっぱり見てるだけ。
EX武装としてレールガンかコイルガンは有るし、壊れてもどうせ子機でバックアップ有るしで、あんまり目減りはしないけど、干渉はしたくないと出し惜しみはする質。
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