第259話 腰が抜けた子供達

 ゴリゴリ

 念入りに頭を噛み砕かれるワニを呆然と見ている。

「「・・・・・・怖かった」」

 ペタンと地べたに座った状態で、妹のヒカリと一緒に呆然と呟いた。

 私もヒカリも、身体が未だ震えて居る。

「所で、和尚達が呼んでいるぞ?」

 見ていただけらしいEXが関係ないことを平坦に告げてきた。

「見てたんなら助けてよ?」

 思わず拗ねて、八つ当たり気味に言い返す。

「ぬーさんが居るだけで戦力過剰だ、私が見る限り、おぬし達が驚いているだけで結構な余裕は有ったぞ?」

 そんなことを言われても、怖いんだからしょうが無い、今まで捕食対象として見られた事なんて無いのだ。

「移動は、出来なそうだな?」

 言い返す言葉が見つからず、黙っている内にEXが変なことを言ってきた。

「何でさ?」

 こっちは言い返せそうなので素直に言い返す。

「立てないだろう?」

 思わず言葉の意味を吟味して、実際に立ち上がろうとして、生まれたての子鹿の様に力が入らず、中途半端に力を入れた結果、座った姿勢すら保てず、バランスを崩して背中から地面に転がった。

 直ぐ近くに居たイリスも巻き込まれて一緒に倒れる。

「むぎゅう」

 イリスが何とも言えない不満の声を上げた。

「・・・・・・成るほど?」

 呆然と呟いた、ついでに、いつの間にか濡れていたらしい地面に転がってしまったので、被害が拡大していた。

 二人揃ってびちゃびちゃのドロドロだ。ついでに何だか生ぬるい感触が有ったりする。

 今日はウルザが居ない日で助かった、子供な私達だけど、今回は流石に色々格好悪すぎる。

 因みにリーオは未だ少し小さいので、余り一緒に行動していない。

「お姉・・・・・・重い・・・・・・」

 気持ち潰れ気味のイリスが不満気な声を上げる、イリスも同じ様に腰が抜けているらしく、自分から抜け出す様子は無い。

「ごめんごめん」

 頑張って転がって潰れたイリスを解放する。

 イリスがやれやれとため息をついた。

「和尚達に救援の呼び出しを申請しておいた、暫く待っておくが良い」

 そんな事をしている内に、EXが淡々と告げてくる。

「呼んじゃったの?!」

 思わず叫んだ、あんまり見せたい状態じゃ無い、だが如何すると聞かれても困るが。

 と言うか、せっかくの服を汚してとか怒られそうで内心ビクビクだ。

「私も無理だから、ぬーさんも最近乗せてくれないし」

 イリスも無理だとEXに同意して来た。

 私達もソレなりに育った結果、其処まで小さくないだろう? と言う感じでぬーさんの世話焼き期間が終わってしまい、背中に乗せて運んでくれると言うことが無くなってしまったのだ。

 結局自分の足で歩けと言う事なので、今回みたいに危ない時以外は手出ししてくれない。

 ついでにそのぬーさんに関しては、ワニの頭を噛み砕いて念入りにとどめを刺した後は、後はお前らの仕事だという感じに、呆れ気味の視線を送ってきている。

 どうやら咥えて背中に乗せてくれるような事も無いので、自力で頑張らなくては行けないらしい。

 結局自分の足で歩け無かった為、イリスと二人揃ってぐちゃぐちゃの地面に転がりながら、ぼんやりと空を見上げる羽目となった。


 和尚視点

 韋駄天の真言で強引に身体強化して走って現場に到着する直前に、強化加速状態を解除して息を整えつつ、歩いて近寄る。

 灯が予めEXに状況説明させていてある程度分かっているため、取り乱すような場面では無い、親父の威厳的なモノも有るのだ。

 EXに無事だとは聞いている為、気楽なモノだ。

「おーい、大丈夫か?」

 娘達、ヒカリとイリスは朝見たときの可愛らしく活動的な服装から一転、泥だらけで地面に転がっていた。

 保護者役のぬーさんはその近くで仕留めたらしい、巨大なワニに足を乗っけてキープのポーズで娘達を観察していた。

「何だかんだ、やっぱり女の子だな?」

 当然と言えば当然な事が口をついて出た。

「ぶー」

 ヒカリが転がったまま何とも言えない不平を漏らす。

「初戦はそんなもんですよ?」

 灯が分かる分かるとうんうん肯いていた。

「誰かを見ているようだ」

 思わず呟く、初戦で腰を抜かした灯の娘で有るヒカリが初戦で腰を抜かすと言うシンクロ具合だ。

「やかましいです」

 灯が口を尖らせるが、少し前のことが懐かしいのか、よく覚えていたな? という感じに目元が笑い、口元が緩んでいた。

「ぬーさんもご苦労様です」

 エリスが流れは理解したという感じに、今回の功労者、ぬーさんを労っていた。

 エリスに関しては娘のイリスに対して、このメンバー内で若干ドライだ、子供の頃自分自身で、これ以上の修羅場を潜って居る類いなので、これ位は大丈夫と言う危険のボーダーラインが若干高い。対して一番怖がりなのはクリスだ、戦闘系の能力一切無いので、危険な事は純粋に怖がるのだ、そんな訳で影響を受けたらしい一番下のリーオは余り外に居ない。

「まあ、何はともあれ……」

 地面に転がったままのヒカリとイリスに目線を合わせるために、膝立ちにしゃがみ、手を伸ばして、両手で二人の手を掴んで起き上がらせる。

 力は抜けている為、ぐにゃりとした感触で若干重いが、二人共未だ小さいので、これぐらいは軽いモノだ。

「無事で良かった」

 そのまま抱き寄せる。

 二人とも腰を抜かしてからソレなりに時間が経過したはずだが、未だ腰は抜けたままらしく、小さく震えていた、ついでにぐっしょり濡れて、何とも言えない感触と匂いがあった。

「オン シュリ マリ ママリ マリシュシュリ ソワカ」

 色々察して咄嗟に唱えた烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)の真言で、小さく浄化の炎が上がり、纏めて浄化される。

 あっと言う間に浄化が済み、綺麗になった。

 これで良しと小さく肯いて抱きしめていた手を緩める。

「「何したの?!」」

 先程まで少し気まずそうにしていた二人の目が。好奇心にらんらんと輝いていた。

「さっき泣いてた鴉がもう笑った……」

 思わず呟いた。

「乙女心と秋の空ですよ」

 灯も立ち直り早いなあと言う感じに感心していた。





 追伸

 何でびちゃびちゃだったのかはお察し下さい。

 時系列的には結構育ってます。若干恥ずかしいお年頃。

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