第266話 副産物、その2
がりがり
びーっと
以前に煮込んだ桑の枝をナイフで軽く引っかけて、皮を剥く、今度は製紙だ。
ザリザリ
びーっと
樹皮の表面に有る凸凹している部分も軽くナイフを当てて剥く、色の薄い部分だけを使うのだ、この段階にすれば後は乾すだけで長期保存できるし、白さ等の品質を優先するなら、この内皮の部分を更に冬場の流水や雪に乗せて天日で漂白するのが最上だが、一先ずコレでそのままやってしまおう。
石臼的な物ですりつぶして処理した樹皮を、水に溶かすようにして、ツナギ用のトロロアオイ代わりにキスゲの根を磨り潰して同じく水に溶かしとろみをつけ、かき混ぜる。
バッシャンバッシャンバッシャンバッシャン
簾(す)と簾桁(すけた)と木枠で容器を作り、先程の水の中でバシャバシャと動かす。
水の中から持ち上げて見ると、ちゃんと容器の底に紙が出来上がっていた。
容器を分解して、紙を干し台に並べていく。
コレで水を切って、乾かすのだ。
「桑でも出来るんですね?」
灯が興味深げに出来上がった紙を眺める。
「和紙の材料、楮(コウゾ)は桑科だからな、割と近縁」
和紙の材料としては最上こうぞの次ぐらいだ、藁(わら)を使った藁半紙(わらばんし)よりランクが高い。桑の繊維は樹皮として、トップクラスに丈夫なのだ。
ばっしゃんばっしゃん
返事しつつ次の分を作り始める、何回取れるか勝負だ。
「売れるかどうかが勝負です」
エリスが目を輝かせている。もう皮算用が始まっていた。
「確かに紙も高いですもんね?」
灯もエリスの目の輝き具合で、儲かるんだろうなあと納得している様子だった。
ある程度の枚数を確保して重ね、板を重(かさ)ねて重(おも)りを乗せて圧搾するようにして水を切る、コレである程度脱水して水が切れたら、一枚ずつ剥がして板に貼り付けて天日で乾燥だ、紙すきも手数は多いし、結構大変な重労働だった。
数日後
ペリペリ
「重なってもちゃんと分離できるんですね?」
ある程度脱水された紙が一枚一枚綺麗に剥がれていく。
「俺もびっくりだ」
その疑問を肯定する。
「何で本人がそのリアクションなんですか」
灯がジト目で返す。
「繊維的には繋がってないのと、本職がそうやって水切りしてるんだからって事で真似してみただけだからな」
置く場所足りんかったしと口の中で続ける。ツナギの接着力が強すぎると一体化したところなので、笑い話ではなかったりするが、結果オーライだ。
「どっかの古いエロ本みたいにバリバリに成るもんかと」
「どんなシモネタだ・・・・・・」
上手い突っ込みの言葉が出てこない。
「通学路に落ちてる怪しいエッチな本は変態の使用済みで、前の使用者の白濁液でマーキングされている事がありまして?」
「わかるから説明せんで良い」
使い捨てにする派はそうするらしいが。
何処にでも出現するのか通学路のエロ本、そしてソレを出す辺り、思春期のサガとしてしっかり引っかかっていた類いらしい。
「やってた口ですか?」
灯が変な笑顔を浮かべる。
「貧乏性で丁寧に読んで保管する派だから、理解はするが、判らんしやらないな」
だから灯達を大事にしてるんだよと言う謎の台詞が浮かんだが、惚気としては出来がよろしく無いな? と、発言前に飲み込む。
「まあ、やり捨てポイ捨てのクズじゃないことは評価しましょう」
言うまでも無く台詞にする前に先回りされている気がする。
「本捨てるほど有ったんですか?」
エリスが首をかしげる。
「私達の故郷では、紙も本も安かったんですよ、子供のおこづかいで買えるぐらい、それぐらいありふれてましたから」
この世界だと銀貨一枚で本一冊買える何てことは無く、一冊で最低でも大銀貨が飛んでいくのだ、まだまだ本も紙も高い。
紙も書類仕事では必需品なのだが、何処ぞの領地の特産品で、常に行商人から輸入しなくてはいけない物品な為、コレを領地で自給自足出来ると考えればかなり美味しい。
出来上がりは、木の板に貼り付けて改めて天日乾燥とやったところ、やっつけ仕事の鉋(かんな)かけは、木目が水気で膨らんでしまい、思ったより凸凹した紙が出来上がっていた。
「多少荒いな?」
思わず呟いた、この世界では羽ペンや筆等の墨やインクで書くのがメインなので、あちらのボールペンのように引っかかると言うことはないのだが、やはり気になる、この辺は良い板を探すように、紙すき職人も含めてお膳立てしなければ成るまい。
「いや、下手な紙より十分綺麗だと思いますよ?」
通りすがりのカナデが感心した様子で試作の紙を眺めていた。
追伸
乾すときの板は銀杏的な特別目が細かい、柾目(まさめ)の巨大な一枚板が理想型となりますが、和尚は見切り発車で始めるきらいが有るため、微妙に仕上げが粗かったりします。
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