第43話 色々終えて
「久しぶりです、このお風呂。」
エリスが呟く。
久しぶりに川の水を使い石焼で風呂を作った。
「いやあ、不便ですけど外でのお風呂は良いもんですよね。」
灯が堂々と伸びをする、見慣れてはいるがやっぱり胸に目は行く。視線を向ける度に灯が得意げに、にやりと笑うのが何とも言えない。
「骨蛭の卵で水源汚染されてたりしないか?」
と気になって聞いた所。
「あの骨蛭はあくまで陸生動物で、長時間水に沈めると溺れるというか、水吸い過ぎて破裂するんです。卵も同様で、死体の中じゃないと孵らないらしいです。」
エリスがしっかりと補足説明してくれた。
「成るほど・・・しかし詳しいな?」
感心しきりである。
「義父さんの眠れない夜のお話は自分の冒険話と、魔物図鑑でしたから。」
「成るほど、英才教育。」
「すごく実践的ですね・・・」
寝物語の教訓で生存を拾えるなら素晴らしい。
そんな訳で危険な生き物が居た水源だが、安心して風呂にすることが出来た。
「やっぱり出来ればお風呂は毎日ですよね。」
「其れには同意するが、外で毎日沸かすのは流石に重労働だな・・・」
灯が贅沢を言うのでたしなめる。
「外では基本鍋沸かしで良いです、時々の方が有難いですから。」
あっさり引いた、エリスもそうだと頷いている。ちなみにエリスの方は伸びをするより足の上に座っているか、俺の腕を抱きしめているのが定位置になってきている。父性にでも飢えているのだろうか?
当然だが懐いてくれるのを邪険にする事も無いし、俺自身くっ付いて居てくれるのは嬉しいので何の問題も無い。
灯も同じように足の上に座っているが、純粋に砂利や岩の上よりは座り心地が良いという意味らしい。まあ理由はどうでもいいのだが。
「それで、手を出さないんですか?」
灯が挑発的に笑いながら色々触って来る。
「湯冷めするからツエルトの中でだ、火力調節忙しいんだよ。」
左手はエリスが抱きしめているので、右手で焚火から火箸や小さいシャベルを使って焼石を湯船の水たまりに補充している、放っておくとすぐに水が流れ込んでお湯が冷めてしまうので忙しいし、下手な所に入れると自分たちが火傷するので結構気を遣う。ついでに一か所だけ熱がこもっても火傷するので忙しくお湯をかき混ぜている。
こうして言うと凄く忙しいし、実際忙しいが、最早無意識でやれる程度に慣れても居るので、問題は無い。
「そろそろ温まった?」
「はい。」
「限界です。」
エリスがのぼせていた。
「だから温まったら無理しないで先にあがれと・・」
「せっかくお湯沸いてるし和尚さん一緒に居るのに勿体無いじゃないですか・・」
思わずそんな事を呟くと、可愛い事を返してくるのでこれ以上怒れない、怒る気も無いのだが。
「その気持ちは嬉しいが、毎日一緒に居るんだからそこまで無理せんでも良いからな・・・」
そう言いながら瓢箪からエリスの口に水を流し込む、意識も有るし。水も飲めるので大丈夫だろう。
「のぼせなかった方が可愛がってもらえるのに・・」
「それは羨ましいので後で今日の分お願いします。」
灯とエリスはこういうのでも連携しているようだ。今の所喧嘩に成らないので安心だ。
エリスは目を閉じて規則正しい寝息を立て始めた。眠ったようだ。
「そんな訳でお願いします。」
「切り替え早いな。」
今日は無くなったかと思ったが、続行らしい。
結局暫くして復活したエリスが混ざったので、後からの話は意味が無くなった。
しっかりと絞り取られた。
次の日起きて、周囲に散らばった骨を改めて回収して虚空の蔵に収納、昨日燃やした炭で歯を磨き、食事を済まして、帰路に就いた。
念のため沼の地点でもう一度試薬を使って毒性を確認してみるが、大分薄まったらしく、無色透明とはいかないが、色はかなり薄くなっていた。念のためもう一度だけ中心部で般若心経を唱えて浄化して、改めて帰路に就いた。
一度登りで切り開いた下り道だったので、帰り道の工程は1日で済んだが。日はかなり傾いたので日が沈み切る直前だった。
門の所で手続きすれば帰還報告は出来るらしいが、こっちのルートだと家に着くまでの通り道に教会とギルドがあるので、暗くなっているが報告に寄って行く事にする。
教会によると、孤児院で預かっている子供たちが出迎えてくれた。少し遅れて神父さんが来る。無事浄化が済んだことを伝えると喜んでくれた、詳しい話がしたいというが、もう遅いのでと、断って、早々に切り上げた。
ギルドの方に寄ると、遅番担当の人しか残って居なかった。それでも最低限の帰還報告とクエスト完了の手続きは出来た。ギルド側の確認と、詳しいレポートはもう遅いので後日と言う事に成ったので今日は帰ることにする。
エリスの家(俺たちの家)に帰り着くと、ギルマスと義母上に無事を喜ばれ、抱きしめられた、もう、此処が帰る家で良いらしい。
食事を終えて色々有った事をざっくりと説明して風呂に入ると、気が緩んだらしく寝落ちしそうになったので、二人に手を出す余裕も無く、ベッドに横になった時点で意識が途切れた。
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