第270話 子供達の出会い(孤児少年視点)

「お兄ちゃん、お腹すいた」

 チビが悲しそうに呟く。言われんでも分かってる、何時でも皆腹ぺこだ。

 俺がどうにかしてやるからと、言葉では応えずに頭を撫でて応えた。

 俺達はこの間の疫病、黒皮病で親を亡くした孤児達の集まりだ、元からの孤児も孤児院が経営が立ち居か無くなり、そもそもの経営者も居なくなってしまい、放り出されている、仕事を貰うためのギルド登録も10歳からなので、こうなると食うにも困る、元は家が農家だった者も居るが、あくまで家を持っていたのは親な為、親が居なくなってしまったらなんやかんやで家も畑も没収されてしまう、コレは領地の土地が総て領主の持ち物で有って、親が借りているだけだと言う状況のため、契約者で有る親が居ない時点で全部持って行かれてしまうのだ。

 当然、子供達は寒空の下放り出されるだけで、こうして孤児として宙ぶらりんとなる。

 こうなると生存戦略は、親類か何かを頼るか、何処かしらの下働きとして雇って貰えれば良いのだが、親も居ない後ろ盾も無いと成ると、保証が無い、結局雇って貰えないと言うことになる。

 やはり飢える訳だ。

 教会の炊き出しも毎日有るわけじゃ無いし、そもそも黒皮病の患者が未だ居るため、うつると死ぬぞと脅されては近づけない。

 そもそも教会もあの患者達を治療するために蓄えを使い切ってしまっているとかの噂もある、どっちにしても頼れない。

 家はもうないので、人の目の無い集落の外れの方に有る空き家に身を寄せることに成った。

 そして、食料の確保には……



 刈り終えた麦の畑に入る、刈り残したり、刈った後で投げ捨てた分は拾っても咎められることは無い、捨てられているのは黒い角が生えた毒麦だが、黒いモノを取り除けば食えないことも無い。

 そもそも贅沢を言える立場では無い、何でも食べて生き残ることしか出来ないのだ。


 ごりごり

 拾い集めた落ち穂を皆で磨り潰す様にして皮を剥く、粉にしてパンにするのは燃料的に辛いので、剥いた後は軽く茹でて麦粥として食べることにする、人数が多くても、水気を多くすれば多少腹が膨れるのが救いだ。


 食事を一粒も一滴も残さずに平らげる、顔に浮かんだ表情は、揃って物足りないという不満げな顔だが、食べられるだけマシだった。


 そんな有る日


 ごん


 ごん


 ごんごんごん


 ばたん!


 居るとバレると何を言われるか分からないので、居留守を決め込んでいると、勢いよく戸を開けられた。

「こんにちわ! 父様から届け物!」

 居たのは、未だ5歳ぐらいの小さな少女の二人組だった、俺達とは違う、上等な服と、栄養状態が良さそうな、良い肌つやと肉付きをしていた。前に居るのは黒髪の娘、後ろに居たのは金髪の娘、育てば美人になるのだろうなと一目で分かる育ちと血筋の良さを感じる。

 だがそんな良いところのお嬢様がこんな所に来るはずが無いだろうと、頭を振って変な想像を追い出す。

 そんな呆然とした、いぶかしげな視線の中、背中から背嚢を取り出し、テーブルに展開した。

 ふわんと、小麦が焼けた良い香りが広がった。

 それは、香ばしく焼けた白パンだった。

 香りの暴力に抗えるハズも無く、目線がパンに吸い込まれる。

 呆然と手を伸ばそうとして、そんなはず無いだろうと手を引っ込める。

 そもそもこの娘達は何者だ? このパンの出所は何処からだ? こんな物を貰ういわれは無い、そもそも父様と言うのも何者だ?

 頭の中を疑問が駆け巡る、考えすぎと言われるかもしれないが、このメンバーの中では自分が最年長のリーダーだ、自分がコイツらを守らなきゃ成らない。

 チビが吸い寄せられるようにパンに手を伸ばそうとして、近くに居た妹がそっと窘める、そうだ、勝手に手を出したら何を言われるか分からない、誰も手を出さない、それで良い。

「食べて良いんですけど?」

 最初の得意気な様子から、すこしだけ気分を害した様子で告げてくる。

 チビがその言葉に飲まれて手を伸ばそうとして。

「よせ!……そうだ、毒?!」

 咄嗟に制止させて、おもわず思いついた言葉を叫んだ。

 ビクリと皆が動きを止めた。

 そうだ、こんないい話があるはずが無い、どうせ趣味の悪い何かだ。

 ズン!

 バキン!

「父様がそんな事するはず無い!」

 衝撃が周囲を揺らす、先程まではニコニコと笑みを浮かべていた黒髪の方が、怒気を強めた。

 睨まれた衝撃で息が詰まる。

(ひっ?!)

 自分よりも小さい娘に睨み付けられ、息が詰まる。

 声が出せないし、息も吸えない。

 咄嗟に首元に手を当てる。

「ほら、ヒカ姉落ち着く」

 しょうが無いなあという感じに、一歩下がっていた金髪の小さい方が一歩先に出て、黒髪の方をポンポンと叩くように撫でて宥めている、少女が一瞬振り向くと、次の瞬間には巨大な猫が黒髪の方にのしかかっていた。少女の頭の上に猫の頭がある、重さに負けたのか、首が斜めに曲がっていて、毛に埋まって圧を発するその目を塞いでいた。

「ぜえっはあっ」

 圧が消え、やっと戻ってきた呼吸の感覚に、思わず膝から崩れ落ちる。

「毒ねえ?」

 金髪の方がパンを一つ取って、小さく千切ると、自らの口に放り込んだ、何の気負いも無く、もう一つ千切って黒髪の方の口に放り込む、残りは巨大な猫の口に放り込まれた。

 それぞれ特に問題無さそうにもごもごと口を動かしている。

「これで良いでしょ?」

「貰う謂れが無い……」

 咄嗟に一言絞り出した。いくら飢えても、落ち穂を拾おうと、未だソコまで落ちては居ないつもりだ。

「めんどくさい……」

 黒髪の方が小さく呟いたのが聞こえた。

「子供のうちはそんなモノ気にするなって御父様なら言うんだろうけど………そうだなあ……?」

 金髪の方も呟き、少し考える風に溜める。

 パン!

「そだ、代わりに私達の子分って事なら良いでしょ? 親分が子分の世話をするのは当然なんだし?!」

 黒髪の方が、コレで解決という感じに手を叩いた。



 追伸

 背中に背負っていた背嚢は、風呂敷です、鞄的な物じゃ有りません。

 この子達、ヒカリとイリスはファザコンとまでは行きませんが、普通に父大好きな類いです、悪く言われると怒ります。

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