第199話 石との出会い

 病院から2人で離れた所で、改めて挨拶する事にした。

「改めて自己紹介しておこうか。ジンだ。好きな様に呼んでくれて良い、お義父さんでも、お兄ちゃんでも」

 しゃがんで目線を合わせ、握手の形で手を出して見る。

「・・・リズ」

 おずおずと言った様子だが、手を握り返してくれた。

 と言うか、今更だが女性名か、まあ、男でも女でも子供の扱い何て変わらんだろう。

 少なくともこの時点では、男女の違いで後から苦労する羽目に成るとは思わなかった・・・・

「よろしくな・・・」

 にっこり笑みを見せて置く。

「・・・よろしくお願いします・・・・ジン・・・お兄ちゃん?」

 複雑そうな顔で、ぎこちない笑みを浮かべて居る、先程までの話相手のお兄ちゃんから、保護者の父親役と役割が変わってしまったので、上手く理解できないのだろう。

 最初に聞き分けてくれたとは思うのだが、未だ子供なので、そうそうすべて聞き分けてくれるとは思って居ない。

「そんな構え無くて良い、まあ、後々慣れれば良いからな」

 ぽんぽんと頭を撫でる。一瞬驚いた顔をしたが、大人しく撫でられていた。


「それじゃあ、一先ず先立つ物を調達するか」

 落ち着いた頃合いを見計らって、立ち上がり、改めて手を繋いで歩き始める。

 流石に子供の歩幅では大分遅いが、急ぐ物でも無いし、まあ良いか


 ギルドに寄って、最後の働きの報酬を寄越せと窓口に居る職員に話すと、思いの他素直に金貨が出て来た、付いて来たリズは、金貨が凄い物だと言うのは理解できているらしく、驚いた様子だった。

 昔のお仲間とも顔を合わせたが、自分の後釜は既に見つけたらしく、新顔が入っていた、新顔が少し気まずそうに目礼をしてくる、まあ、良い事だ。前回の顔合わせで復帰出来ない事は伝えて既にPTを抜けて居るので、すでに半分他人事である。

 流行としては、俺が実質的な主力なのに追い出されて、残った連中が困ってざまあとすれば良いらしいが、今更騒ぐ事も無い。

 これからどうするか? と聞かれたので、田舎にでも引っ込むと答えて置いた、乗合馬車でも捕まえて移動するかと、準備の為にと市場を散策中に、不意にリズがきょろきょろとし始めた。

「何かあったか?」

 聞いて、好きに行って見ろと背中を押して見ると、引き寄せらせるように道端に居る行商らしい古物屋に向かっていった。

 迷う事も無く、一つの石を睨みつけて居る、見た感じそれほど高くないウッドボルダーオパールだ、化石化した木に染み込んだオパールがひび割れた年輪状の珍しい模様を浮かべて居るが、ほぼ木の方が本体と言う様なオパール分の少なさだ、恐らく宝石としてはそれほど高くは無い。

「如何です? 手に取って見て見ます?」

 店主は保護者は俺だと認識したのか、ほっとした様子で声をかけて来た。

「気に成るか?」

 リズに聞いて見る。

 迷う事無く、こくりと頷いた。

 一先ず先に手に取って見る、見た目よりもずっしりと重く、ひんやりとしている、守り石として肌身離さずに持ち歩かせるには辛いかも知れないが・・・

「見た目より重いから気を付けてな」

 リズの小さな手に石を持たせてみる。

 重いのは確かだが、其処まで辛い重さでは無いらしく、問題無さそうに手に持って居る。

 興味深そうに目を輝かせて石を見つめている、どうやら当たりだ。

 自分の故郷では、何かしらの石のアクセサリーを子供に持たせて、守り石とする習慣が有った、義理とは言え、自分の子供と成ったようなものだ、親として最初の贈り物としては悪くないように思える。

 因みに、自分に贈られた石は水晶だった、割とありふれた石だが、今でも胸元に入っている。

「で、幾らだ?」

 値札が付いて居なかったので店主の男に尋ねる。

「大銀貨1枚です」

 宝石としては安くも無く高くも無く、微妙な値段だが・・・・

「まさかそんな値段で売れる訳無いだろう?」

 一先ず値切る事にした。


 最終的に、5割ほど下がった。

 店を構えた職人系では無く、適当に並べている行商人系は、品物と値段が一致しない事が多い、ぼったくりで評判が悪かろうと次の場所に移動するだけなので、相場の10倍何て事も良くある事だが。

 今回も多分ぼったくられては居ない・・・はずだ・・・・


「全く、お客さんには敵わねえな」

 店主が苦笑いを浮かべて手を出して来る。

「まだ余裕が有りそうだが?」

 其の手に石の代金だと銀貨を出して握らせる。

「もうご勘弁を」

 代金と交換で石を受け取った。


 紐は付いて来なかったので、後で荷物の中に有った針金と組紐で首飾りをでっち上げて、リズの首にかけた。

 片手仕事に慣れて居なかったので、結構時間がかかった、左利きなので聞き手は無事なのだが、無意識の内に右手も使って居るので、こうした時に不便だな・・・

「盗まれるから服の下に入れとけ、人前で自慢するのも止めて置けよ?」

 念を押して置く、安物で有ろうと、輝石の類は人目に付くと盗みの目標にされがちだ。

「有り難う・・・ございます・・・」

「未だ硬いな・・・」

 関係が変わってしまったので、未だ距離感が掴めていないらしい。

 他人行儀と言うか、背伸びして大人っぽく、嫌われないようにと殻にこもってしまったらしい。

 敬語が使えると言う事は意外と頭が良いと言うか、見た目より歳が上か? そうすると背が小さいから、発育が悪いだけだろうか?

 無意識にほっぺを摘まんでむにむにして見る。

「敬語も何も要らん、昨日まで見たいに話してくれて良い」

 真っ直ぐ目を見てそう告げた。

「むーうーぬー」

 痛くないように軽く摘まむ程度で手加減はしているが、うめき声を上げている、話し難かったらしく手を振り上げて、身をよじったので、手を放す。

「まあ、後々慣れてくれれば良いから」

 そう言って、改めて頭を撫でておいた。


 それが、リズと親子に成ってから初日の出来事だった。

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