第206話 黒の病気
「緊急です、貴方の知恵をお借りしたい」
何時もの様にギルドで3人揃って良さげな依頼を物色して居た所、来客ですとギルド職員に捕まり、あれよあれよと言う間にギルマス部屋に通された。
「お待ちして居ました」
何時もの役人さんだった、何時も割の良い高難度依頼と言うか、自分以外では何をどうしろと言う仕事を持って来てくれるので、少し身構える。
最初の時の殺気は何処に行ったのやらと言うほのぼの具合でちょくちょく見かける様に成って居たのだが、どうやら切羽詰まって居るのか、顔つきに余裕が無い。
「何かありましたか?」
エリスが先に口火を切った。
「今回は病気に付いて聞きたい事が有ります、黒皮病と言う物を知って居ますか?」
「いいえ? どんな症状の病気です?」
黒死病かと思ったが、少し違う様だ。
「先ずは首の横が腫れます、そして、手指が真黒く染まり、高熱を出し、肺炎や咳を伴い、酷くなると全身が真っ黒に成り死に至ります」
ペストかな? 黒死病かと思ったら黒死病だったでござる・・・
(EX、聞いた分だけで分析した場合、出て来る病名は?)
小声で話しかける。
(手指が黒く染まる時点で黒死病、ペストと見るが、専門外だから何とも言えんのでは無いか?)
予想通りの答えを返して来る。
何だかんだで、EXの定位置はエリスの杖に巻き付く謎の蛇の様な装飾と成って居て、話しかけると色々と要らん事を含めて答えてくれる。
灯の要求によって取り込んだスマホのデータを公開されたりするので、油断も隙もありゃしない。
尚、装飾の振りをしているだけで必要な時は自立稼働するので、極めて怪しい物体であるが、言う程人から突っ込まれる事は無い。
更に言うと、こいつは蛇のような恰好をしているだけで、良く見ると百足やヤスデの様に足が生えているが、どっちにしても飾りなので突っ込むのにも飽きている。
技術LVに干渉するのは問題だと言ってあまり答えてくれないのだが、ロボット3原則を盾に交渉し、EX実験の最終目標に必要な資材の提供や、資源の候補地探しを交換材料にして、色々便利に使う事を受け入れさせたのだ。
「聞いた分だけで判断すると、ペスト、こっちの故郷では黒死病と言われていた病気だと思いますが・・・・」
「良かった、では特効薬を作れますか?」
此方の返答に対して役人が露骨に安堵した表情を浮かべる。
「特効薬を作るのは難しいのですが、伝染させないようにする事なら出来ない事も無い感じですね」
「其れでも此方としては希望が見えました」
「実際の患者を見ない事には如何とも言えませんけどね?」
予防線を張って置く。
「では、依頼を出させていただきます。着手金、前金として大金貨で10枚、この伝染病を収められたら更に追加で100枚でお願いできますか?」
中々愉快な金額が出て来た。
「こっちも命懸けに成るんで・・・」
此方の台詞に、灯とエリス、横で聞いて居た義父上もぎょっと目を剥く。
「分かって居ます、治療法の論文と薬も付けて頂きたいですけど、報酬倍額で良いですか?」
予想通りと言う様子で追加分を積み上げて来た、横で見て居る面々が更に目を剥く。
恐らく最初から予定していた金額がこっちだ、成程、狐だな・・・
「中々上手いですね?」
褒めて見る。
「現状不治の病です、治療も出来ずに村単位、町単位、下手すると領地単位所か国単位でボロボロ死んで居ます、これ位なら安いものですよ」
ニコニコと笑って居るが、良く見ると目の下にクマが見える、流石にコレ以上は吊り上がら無い様だ。
「成程、感染場所は?」
「隣の領地です、この領地では驚くほど感染が広がって居ないんですけど、心当たりは?」
義父上を通り過ぎて此方に質問が飛んで来る。
「確証は有りませんが、草原の主が頑張ってくれて居るからですね?」
確証は無いが、恐らくその線で良いのだと思う。
「ほう?」
この土地では、猫系の生き物が矢鱈と多い、しかも良く見るとイエネコ系では無くワイルドキャット系、明らかに虎やらライオンやらジャガーやらチーターやら何やらな系列の幼体が当然の顔してうろうろして居るのだ。
冬場に人の家に上がり込む冬越し猫と言うこの地のみの風習らしいが、恐らくそのせいで吸血ノミを運搬する宿主である鼠が居ないのだろう。
因みに、猫はペスト耐性が有るので発症しないが、感染はするので噛まれると怖い。序に言うと、猫の場合は暫くすれば勝手に治癒するらしい、人間相手にのみ致命傷の細菌である。
「まあ、詳しい事は後程聞きましょう、受けてくれますね?」
今更拒否権は無さそうだった。
「分かりました、しかし、冒険者の仕事では有りませんね?」
思わず呟く。
「冒険者は何でも屋ですから、そしてこの地のギルドは全ての経済活動の拠点です、何の問題も有りませんよ」
役人はほっとした様子で笑って居た。
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