第109話 その頃のギルマスと職員達

「所で、この木彫りの人形は結局何なんだ?」

 婿殿、和尚に渡された木彫りの人形の入った袋を担ぎながらぼやいた。

 先ほど、心行く迄息子を抱きしめ、妻にお礼を言った所で、後産はあまり見る物じゃないと、産婆に追い出された。

 これ幸いと、娘のエリスに護衛をされながらギルドに向かっている。

「和尚さんが言うには地蔵菩薩って言う偉い神様だそうです、いざと言う時には身代わりになって割れるそうなんですけど。」

 娘のエリスが説明してくれる、

「さっきから触っても居ないのにパキパキ音がするんだが?」

 先ほどから、手も触れていない、袋を肩に担いでいるだけの状態なのにパキパキと音がする。壊れているのではないだろうか?

「・・・絶対にギルドに着いたら外に出ないで下さいね?」

 エリスがいつになく強い口調で念を押してきた。

「分かったが、ギルマスの俺が現場に出ないと・・・」

「良いですから!何が有ってもです!私達だけでどうにかします!細かい事は職員の人と冒険者に任せて下さい!」

「そうです、ギルマスは働き過ぎです、私たち職員が現場回しますから、書類上の責任だけお願いします。」

 思わずと言った様子で語気を荒げたエリスに職員が気が付いたのか、近くに寄って同意して来た。

「わかったわかった、書類は俺がどうにかする、武器庫の弓も火薬も食糧も好きに使え、許可の書類は出しておくから。」

 こう言った時の為に、ギルドの倉庫には弓矢や火薬玉、剣や盾等の備蓄品が置いて有る、解体場の獲物保管用の氷室も、食糧備蓄として肉が溜まって居る、最悪の場合籠城戦も出来る様に準備はしてあるのだ。

「其れはもう先に使わせてもらっています、武器屋の在庫を接収するための予算も付けて置いて下さい。」

 指示を出す前に既に使って居るらしい、更に足りない前提で武器屋の在庫か。

「わかった、防衛戦抜かれた時点で負けだ、好きに使え。」

「はい、許可申請の書類は机の上に乗せて在ります、チェックとサインをお願いします。」

 職員たちは本気で俺無しでも全部する積りだったらしい、頼もしいやら何やら・・

 そうこう言いながらギルドの前に着いた。

「じゃあ、俺には書類が待ってるそうだ、エリスは和尚の所に行くんだろう?」

「はい、行って来ます。」

 俺の質問に、エリスが当然と言った様子で頷く。

「今度は全員無事で帰って来いよ?」

 思わずそんな言葉が出た。ゴブリン相手に送り出した時、前回はエリス一人しか返ってこなかった、その時に代わりに和尚を連れて帰って来たのが既に1年以上前だが、昨日の事のように思い出せる。

「当然です、子供達と待って居て下さい。」

 エリスは苦笑を浮かべて、改めて前線に向かって走って行った。


「さて、俺の敵は書類か・・・」

「はい、今日の昼間の分からかなり溜まって居ます。」

 妻が産気付いたので、仕事そっちのけで帰って来ていたのだ、そちらは職員任せとは行かなかったらしい。

「わかったわかった、好きに使え、それと、街中の警備を出して置くのを忘れるな、ゴブリンの奴らは変な所から紛れ込む。」

「はい、見回りを出しておきます。」

「それと、村の中、物陰にヌシが歩いてるが、こっちから手を出さない限りは絶対にこっちを攻撃してこない筈だ、居ても絶対に攻撃したり騒ぐんじゃないぞ。」

「はい?」

 其方はまだ分かって居なかったらしい。

「良いから、そんなもんだ、見回り組には徹底させろ。」

「分かりました。」

 理解していない様子でそう返して来た、今は理解できなくても、現場で出くわせば意味は分かるはずだ。さて、此方の戦争を始めよう。ん?そういえば。

「現場指揮は誰が執ってるんだ?」

 今更だが聞いた、誰かは予想が付くが、念のためだ。

「ヒゲクマさんたち深紅の翼が現場の全体指揮です。」

「お決まりのメンバーか、大きくなったもんだ。」

 思わず呟いた、前回は俺たちと一緒に共闘と言うか、あの時のあいつらはひよっこ冒険者で、俺たちが半ば背中で守って居た、最後の最後に俺は倒れて、助けられたが。それが今では奴らに守られる側である。

「老ける訳だ。」

 思わず口をついて出た。孫も出来たしな。

「何です?」

 これは聞こえなかったらしい。

「いや、彼奴らの活躍を期待しておくとする。」

「そうですね、無事に済めばいいんですけどね。」

 そう言って、二人で苦笑を浮かべた。

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