第324話第二百三十七段 柳筥に据ゆるものは
(原文)
柳筥に据ゆるものは、縦様・横様、物によるべきにや。「巻物などは縦様に置きて、木の間より紙ひねりを通して結ひつく。硯も縦様に置きたる、筆転ばず、よし」と、三条右大臣殿仰せられき。
勘解由小路の家の能書の人々は、かりにも縦様に置かるる事なし。必ず縦様に据ゑられ侍りき。
※柳箱:柳の枝を並べ、二か所を糸で結び、すのこのようにして、足をつけたもの。もとは箱ではあるけれど、箱の蓋の部分を模して独立した台としたもの。
※三条右大臣殿:未詳。兼好氏の時代には該当する人物がいないので、過去の時代になるけれど、諸説あり、確定されていない。ただ、この段で出て来る以上は故実に詳しい人になる。
※勘解由小路の家:世尊寺家。能書家藤原行成の子孫。書道の家。
(舞夢訳)
柳箱の上に乗せておく物については、縦に置くのか、あるいは横に置くのか、その物によるのであろうか。
「巻物などは縦に置き、木の間から、こよりを通して結びつける。硯も縦に置いた方が筆が転ばなくてよい」と、三条右大臣殿がおっしゃられていた。
しかし、勘解由小路家の能書の人々は、かりそめにも縦に置くことはない。
必ず横に置かれるのであった。
柳箱の上に物をどう置くのかがテーマ。
兼好氏は、その物しだいとの考えもあるらしいけれど、二つの説を紹介している。
判断が難しいのは故実に詳しい三条右大臣殿と、実際の勘解由小路の家の見解が全く異なっていること。
兼好氏も途中まで考えて、結論が出せなかった。
そのため、二つの説の紹介に留めているのだと思う。
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