第29話第十九段 をりふしの移る変わるこそ(3)
(原文)
「灌仏会のころ、祭のころ、若葉の、梢涼しげに茂りゆくほどこそ、世のあはれも、人の恋しさもまされ」と人のおほせられしこそ、げにさるものなれ。
五月、あやめふくころ、早苗とるころ、水鶏のたたくなど、心ぼそからぬかは。
六月のころ、あやしき家に夕顔の白く見えて、蚊遣火ふすぶるもあはれなり。
六月祓又をかし。
(舞夢訳)
「灌仏会や賀茂の祭りの頃になると、若葉が梢に涼しげな雰囲気を見せて繁っていく、そういう頃は世の中の情趣も深まるし、人恋しさも、より増すような気がする」と、誰かが言われていたけれど、まさにその通りだと思う。
五月になって、あやめを軒に挿すころや、早苗を取るころに、くいなが鳴く時の風情に、心細さを感じない人があるのだろうか。
六月になると、しがない民家に夕顔が、ほの白く見える。
そのまわりを、蚊やり火の煙がたなびいているのも、なかなかの風情。
六月祓も、また面白い。
※灌仏会:4月8日の釈迦誕生日を祝う行事。
※祭り:賀茂祭。
※六月祓:6月の晦日の夜に、水辺で祓の行事をする。邪気を払う重要な行事で、宮中、諸社、貴族屋敷で実施。「夏越に祓」とも言う。茅の輪くぐりや、人形流しなどを行った。
新芽の季節になる。
灌仏会や賀茂祭の時期になると、花を愛でられないからこそ、人恋しくなるのだろうか。
初夏特有の、感傷的な気分という人もいる。
日中の暑さと、初夏の夜風の冷たさ。
これはこれで、なかなかの風情と思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます