第86話第六十段 真乗院に盛親僧都とて(1)

(原文)

真乗院に盛親僧都とて、やんごとなき智者ありけり。

芋頭といふ物を好みて、多く食ひけり。

談義の座にても、大きなる鉢にうづたかく盛りて、膝もとに置きつつ、食ひながら文をも読みけり。

患ふ事あるには、七日、二七日など、療治とて籠り居て、思ふやうによき芋頭をえらびて、ことに多く食ひて、万の病をいやしけり。

人には食はする事なし。

ただひとりのみぞ食ひける。


(舞夢訳)

仁和寺の真乗院に、盛親僧都という名高い僧都がいた。

芋頭という物を好み、多く食べていた。

談義の座においても、芋頭を大きな鉢にうず高く盛り、膝もとに置いて、食べながら書物を読んでいた。

病気になった時には、7日、あるいは14日などと期限を定めて、療治として僧房に籠り、とりわけ上質な芋頭を選び、より多く食べ、万病を治した。

ただ、他人に食べさせることはなく、ただ自分一人だけで食べた。


※盛親僧都:未詳。徳治3年(1308)頃に生きていた人物らしい程度。

※いもがしら:里芋の球茎。タロイモとの説あり。

※談義の座:仏典の講義をする座。



またしても仁和寺の一風変わった僧侶の話となる。

芋頭がどれだけ美味しいのか、年がら年中食べ、真面目に修行するべき談義の座でも食べ、全ての病気も芋頭で治す。

食物繊維が多そうな感じなので、特段の効果があるのだろうか。

他の人には食べさせず自分だけ食べたとなると、相当独占欲が強かったのか。

たくさんあれば、おすそ分けぐらいは、してもいいのにとも思う。


あまり「芋食い」をしない訳者としては、奇妙な話。

炭水化物ダイエットをしている人々には、「え?マジ?」の話。

しかし、そんな行状の僧侶が何故、僧都にまで出世したのだろうか。


続きは次回にて。





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