第103話第七十三段 世に語り伝ふる事(1)
(原文)
世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり。
あるにも過ぎて人は物を言ひなすに、まして、年月過ぎ、境も隔たりぬれば、言ひたきままに語りなして、筆にも書きとどめぬれば、やがて又定まりぬ。
道々の物の上手のいみじき事など、かたくななる人の、その道知らぬは、そぞろに神のごとくに言へども、道知れる人は更に信もおこさず、音に聞くと見る時とは、何事もかはるものなり。
(舞夢訳)
世間において語り伝えられている事は、事実が本当は面白くないためだろうか、ほとんどが嘘であり、事実に反している。
そもそも、人は事実以上に大げさに話を膨らませて話をする傾向がある。
その上、事実のあった時から、年月が経過して、その現場から離れてしまえば、好き勝手に話を脚色してしまうし、その脚色された話が文章として書き記されてしまうと、それが事実として書き記されてしまうのである。
それぞれの専門分野の名人の優れた逸話などは、道理を知らないとか、その専門分野に詳しくない人は、神の技を語るかのように言うようになる。
しかし、その専門分野に詳しい人になると、そんな話は信じない。
噂を聞くのと、実際に見るのとは、全てにおいて、異なるのである。
実態とはかけ離れて、噂が膨張していく過程を上手に書いていると思う。
実際に、自分の目で見れば、疑問符となることも多い。
少々ずれるかもしれないけれど、「うどんの名店」と噂され、雑誌にも書かれ、昼休みに1時間も大行列するサラリーマンの姿を思い出した。
しかし、「かけうどん」を食べるのに、真夏でも真冬でも、1時間並ぶのだから、噂のパワー恐るべしとも思う。
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