第258話第百八十五段 城奥守泰盛は
(原文)
城陸奥守泰盛は、双なき馬乗りなりけり。
馬を引き出させけるに、足をそろへて閾をゆらりと越ゆるを見ては、「これは勇める馬なり」とて、鞍を置きかへさせけり。
また、足をのべて閾に蹴あてぬれば、「これはにぶくして、あやまちあるべし」とて、乗らざりけり。
道を知らざらん人、かばかり恐れなんや。
※城陸奥守泰盛:安達泰盛。秋田城介となり、後に陸奥守を兼任。
※閾(しきみ):敷居。家屋の入り口などに敷く横木。
(舞夢訳)
城陸奥守泰盛は、比類なき乗馬の名人であった。
厩舎から馬を引き出す際に、馬が足をそろえて軽々と敷居を乗り越えるのを見ると、「この馬は気が荒い」と、別の馬に鞍を置きかえさせた。
また、馬が足を伸ばしたままで、敷居に躓いたりすると、「この馬は鈍重で、乗ると怪我をしそうだ」と言って、その馬には乗らなかった。
乗馬をよく知らない人であれば、これほどまでに恐れるものであろうか。
馬に乗るということは、自分の命も馬に乗せるということ。
その意味で、馬選びも慎重にしなくてはならない。
その慎重な馬選びがあって、比類なき乗馬の名人になったのだろうか。
ただ、その乗馬の名人も、その域に達するまでは、様々な失敗もあったのではないかと思う。
えてして、素人はいい加減なことを言うけれど、やはり経験を重ねた名人でなければ、わからないこともあるようだ。
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