第75話第五十三段 これも仁和寺の法師(2)

(原文)

しばしかなでて後、抜かんとするに、大方抜かれず。

酒宴ことさめて、いかがはせんと惑ひけり。とかくすれば、頸のまはりかけて血たり、ただ腫れに腫れみちて、息もつまりければ、打ち割らんとすれど、たやすく割れず、響きて堪へがたかりければ、かなはで、すべきやうもなくて、三足なる角の上に、帷子をうちかけて、手をひき杖をつかせて、京なる医師のがり、率て行きける道すがら、人のあやしみ見る事かぎりなし。



(舞夢訳)

しばらく舞い遊んだ後、から、頭を引き抜こうとしたけれど、全く抜けない。

酒宴は興ざめとなり、どうしていいのかわからず、困り果ててしまった。

いろいろ手をつくしているうちに、首のまわりの皮膚が破れ、流血となり、またその部分が腫れ上がって、ますます抜けにくくなるうえに、息も苦しい様子。

そこで、を叩き割ろうとしたけれど、簡単に割れるようなものではないし、叩く音がの中に大きく響くので堪え難い様子でもあったので、結局叩き割ることは断念。

もはや手の施しようがないので、の三本足が角のようになった頭部に帷子をかけて、手を引き杖をついて都の医者のもとに連れて行くことになったけれど、そこまでの道中、人々は呆れかえって、その様子を見物しているのである。



単なる酒席の余興で始まった、を被った舞が、とんでもない事態となってしまった。

は抜けなくなるし、抜こうとして首の皮膚が破れ、流血にはなるし、余計にそこの部分が膨れ上がって抜けない。

抜けないなら、ごと、叩き割ろうとするけれど、そんな簡単に割れるようなものではなく、叩く音が内部で大反響するから、それも辛い。

結局、素人では無理という話となり、都の医師に頼むしかない。

をかぶったまま、一応帷子をかけて、道を行くけれど、物見高い京の民衆には、呆れかえられてしまう。



仁和寺にも、医師はいただろうけれど、おそらく見放されたのだろう。

しかし、抜けないことには、どうにもならない。

恥をしのんで、都のしかるべき医師に出向く。

それでも、解決があるのだろうか。


結末は次回となります。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る