第116話第八十三段 竹林院入道左大臣殿
(原文)
竹林院入道左大臣殿、太政大臣にあがり給はんに、なにの滞りかおはせんなれども、「めづらしげなし。一上にてやみなん」とて、出家し給ひにけり。
洞院左大臣殿、この事を甘心し給ひて、相国の望みおはせざりけり。
「亢竜の悔あり」とかやいふこと侍るなり。
月満ちては欠け、物盛りにしては衰ふ。
万の事、さきのつまりたるは、破れに近き道なり。
(舞夢訳)
竹林院入道左大臣殿は、太政大臣の地位にご昇進なさられるに際して、全く問題がなない御方であったけれど、「そんな地位など目新しくも何ともない、左大臣で辞めよう」とおっしゃられ、出家なされてしまった。
桐院の左大臣殿は、このことに感心なされていて、太政大臣の地位への望みを持たれなかったという。
「亢竜の悔あり」という言葉がある。
満月になれば欠けていくし、物事は盛りの後は衰えていく。
全ての事は、先がつまっているのは、破滅の道が近いということになる。
※竹林院入道左大臣:藤原(西園寺)公衡。延慶2年(1309)3月左大臣、同年6月に辞任、翌々年に出家。
※桐院の左大臣:藤原(洞院)実泰。文保2年(1318)8月から元亨2年(1322)8月までと、元亨3年6月から翌年4月まで左大臣の地位。いずれも自ら辞任した。
※相国の望み:太政大臣に昇る望み。
※亢竜の悔:高い所に昇りつめた竜は下に降りるしか道が無いので、後悔の念を持つとの意味。富貴・栄華を極めた後は、衰亡のみが待っていることのたとえ。
社会的地位を極めたとしても、一時的なもの。
いつかは終わりがくるし、終わりがくれば、人々の気持ちも、その人から離れていくことが世の流れ。
そんな思いをするなら、社会的地位を極めることなど、面白くも何ともない。
さっさと辞めて、自らの生活を楽しむ。
兼好氏が取り上げた通り、これも素晴らしい生き方の一つだと思う。
いつかは失われる社会的地位に楽しみや望みを持っても、あまり意味はない。
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