第182話第百三十四段 高倉院の法華堂の三昧僧(1)
(原文)
高倉院の法華堂の三昧僧、なにがしの律師とかやいふもの、ある時、鏡を取りて顔をつくづくと見て、我がかたちのみにくく、あさましき事を余りに心うく覚えて、鏡さへうとましき心地しければ、その後長く鏡を恐れて手にだに取らず、更に人にまじはる事なし。御堂のつとめばかりにあひて、籠り居たりと聞き侍りしこそ、ありがたく覚えしか。
(舞夢訳)
高倉院の御陵の法華堂で三昧僧を勤めた、なにがしの律師という人がいた。
その人は、ある時、鏡を手に取り、自分の顔をつくづくと見たところ、実に醜く情けなく思い、その顔を映す鏡まで、嫌悪感を覚えてしまった。
その後は、鏡を怖がり、長い間手に取って見ることもせず、そのうえ他人との交流も絶ってしまった。
法華堂での勤行に参加するだけとなり、それ以外は自室に籠るのみになったそうである。
実に、珍しい事と感じた。
※高倉院の法華堂:清閑寺の法華三昧堂。高倉院は第八十八代天皇。治承五年崩御。
よほどの醜悪な顔だったのだろうか。
とにかく、自分自身の顔に落胆。
人に合わせる顔ではないと決断し、その後は必要以外の交流を断つ。
「そうではない」と交流を求める同輩や人もいたはず。
次回以降、この珍しい話をもとに、兼好氏の自己認識論が展開する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます