第77話第五十四段 御室に、いみじき児の(1)

(原文)

御室に、いみじきちごのありけるが、いかで誘ひ出して遊ばんとたくらむ法師どもありて、能ある遊び法師どもなどかたらひて、風流の破子わりこやうのもの、ねんごろに営み出でて、箱風情の物にしたため入れて、ならびの岡の便よき所に埋みおきて、紅葉散らしかけなど、思ひよらぬさまして、御所へ参りて、児をそそのかし出でにけり。


(舞夢訳)

御室に、見目麗しい稚児がいた。

その稚児をどうにかして誘い出して遊ぼうと企んだ法師たちがいて、芸事が得意な遊び法師たちを仲間に引き入れ、雰囲気の良い破子のような物を念入りに作った。

そして、それを箱の形をした容器に納めて、双ヶ岡の都合の良い場所に埋めた。

その場所の上には、紅葉を散らして隠し、全く不自然にならないように整えた。

それから、稚児がいる仁和持の法親王の御所に参上し、稚児を誘い出したのである。


※破子:弁当箱の一種。檜の白木で作り、中に仕切りを作って、その中に様々な食物を入れて、蓋をする。

※双の岡:仁和寺南の丘陵。三つの岡、一の丘、二の丘、三の丘が並んでいる。


この段も、皇室ゆかりの御室寺院、仁和寺の法師の話となる。

見目麗しく、また、しかるべき高貴な家柄出身で才色兼備の稚児がいた。

法師たちは、その稚児と「遊び」たくなった。

そして、「遊ぶ」ための計画を立てる。

芸達者で歌舞専門の法師「遊び法師」たちまで、仲間に引き入れ、立派な破子を作る。

また、ご丁寧にそれを箱に入れ、遊び場所に好都合な場所を選んで埋め、その上に紅葉を散らして、一見わからないように整える。

そして用意万端整った彼らは、法親王の御所に参上し、言葉巧みに、お目当ての稚児を誘い出すことに成功するのである。



「稚児遊び」「男色」が禁忌ではなかった時代ならではの、遊びなのだろうか。


結果は思いもよらないことになるけれど、続きは次回にて。

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