第140話第百三段 大覚寺殿にて
(原文)
大覚寺殿にて、近習の人ども、なぞなぞを作りて解かれける処へ、医師忠守参りたりけるに、侍従大納言公明卿、「我が朝の者とも見えぬ忠守かな」と、なぞなぞにせらけにけるを、「唐瓶子」と解きて笑ひあはれければ、腹立ちて退り出でにけり。
(舞夢訳)
大覚寺殿で、院のおそば仕えをする人たちが、謎々を作って解いて遊んでいるところに、医師の忠守が参上した。
すると、侍従大納言公明卿が、
「我が国の人とは見えない忠守かな」と、忠守を謎々の問題に仕立てたところ、
ある人が、
「唐瓶子」と解き、全員で大笑いとなってしまった。
忠守は、腹を立てて退席してしまった。
※大覚寺殿:京都大覚寺に営まれた仙洞御所。この段の時は後宇多法皇。
※医師忠守:丹波忠守。典薬頭を勤め歌人としても著名。出自の丹波氏は中国系帰化人の阿知使主を祖とする家。
※侍従大納言公明卿:三条公明。延元元年(1336)に権大納言、侍従を兼ねる。その四か月後に没(55歳)。
※唐瓶子:金属製、あるいは黒塗りの徳利のようなもの。『平家物語』で平忠盛が伊勢平氏であることを「伊勢瓶子はすが目なりけり」と囃されたことをふまえ、忠守が中国からの渡来人であることをからかっている。
医師忠守は唐ゆかりの人というだけでなく、容姿も唐瓶子(服装を含めて)のような雰囲気(色浅黒く背低い肥満体?)だったようで、謎々のからかいの対象となってしまった。
その謎々の遊びの場の面々は、すでに酒も回り、言いたい放題。
そこにシラフで入って行って、からかわれ、言い返せず立腹して帰る忠守。
お固い人だったのか、怒りっぽい人だったのか、少々可哀そうな気もする。
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