第168話第百二十二段 人の才能は(2)
(原文)
次に弓射、馬に乗る事、六芸に出せり。
必ずこれをうかがふべし。
文・武・医の道、誠に、欠けてはあるべからず。
これを学ばんをば、いたづらなる人といふべからず。
次に、食は人の天なり。
よく味を調へ知れる人、大きなる徳とすべし。
次に細工、万に要多し。
この外の事ども、多能は君子の恥ずる処なり。
詩歌にたくみに、糸竹に妙なるは幽玄の道、君臣これを重くすといへども、今の世にはこれをもちて世を治むる事、漸くおろかなるに似たり。
金はすぐれたれども、鉄の益多きにしかざるがごとし。
(舞夢訳)
次に学ぶべきは、弓射と乗馬であり、これは六芸の中に挙げられている。
必ず、これをたしなむべきである。
このように、文・武・医の道は、実に欠けてはならないものである。
これらを学ぶ人に対して、無駄なことをしている人などとは、言ってはいけない。
次に、食事というものは、人間の命の基本である。
しっかりとした調理の仕方を身につけている人は、素晴らしい徳を持っていると言うべきである。
その次には工芸、様々万事に有益である。
この他のものについて言うと、多能は君子の恥なのである。
詩歌の巧みさや、音楽に妙技を持つことは、雅であり深いものがあり、君臣ともに重要であるけれど、現代の世でこれにより、世を治めるなどは既に不可能だと思う。
キラキラと輝く金は確かに価値が高いけれど、実質的には鉄の用途の多さには、及ばないと同じことである。
※六芸:古代中国で士以上の者が修得すべきとされた分野。礼・楽(音楽)・射・御(馬術)・書・数(数学)。
最後は為政者のあり方にまで、「学ぶべき論」が進んでいる。
(金)詩歌管弦では、世は治められない。
(鉄)現実の生活に即し、有益な技術を身につけるべきである。
「衣食足りて礼節を知る」などの言葉があるけれど、その衣食を足りるまでにするには、やはり現実的な生活能力を鍛えなければならない。
花鳥風月を愛しむ心を否定するのではないけれど、人間として着実な生活を営むための、基本的技術はしっかりと学ぶべきとの理論なのだと思う。
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