第334話第二百四十段 しのぶの浦の蜑の見る目も(2)

(原文)

すべて、よその人の取りまかなひたらん、うたて心づきなき事多かるべし。よき女ならんにつけても、品くだり、見にくく、年もたけなん男は、かくあやしき身のために、あたら身をいたづらになさんやはと、人も心劣りせられ、わが身は、むかひゐたらんも、影はづかしく覚えなん、いとこそあいなからめ。

梅の花かうばしき夜の朧月にたたずみ、御垣が原の露分け出でん有明の月も、わが身さまにしのばるべくもなからん人は、ただ色好まざらんにはしかじ。


(舞夢訳)

第三者が取り持つような結婚は、すべてが実に不愉快なことが多いと思われる。

立派な女を妻としたとしても、身分が低い、醜い容姿、老境に入った男としては、こんな程度の悪い自分のために、何を考えて妻はその身を犠牲にするのだろうかと、その女についてまでくだらなく感じてしまう。

また、自分自身も立派な女と向かい合うことに、引け目を感じてしまうと思う。

それを考えれば、実につまらないことなのである。

梅の花から漂う芳香のなか、朧月夜にたたずみ、恋人の住む屋敷の庭の草露を踏み分けて帰りにつく有明の空の情景を、自分自身の経験から思い出すことができないような男は、そもそも、恋をするなど関わるべきではないのである。


兼好氏は。妻問い婚の時代に憧れていたので、このような結婚観となる。

それと、京都人特有の地方差別、東国差別も根底にある。

つまり京都人でなければ、よほどの高位高官でなければ、「人としては下劣」との判断である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る