第6話第二段 いにひへのひじりの御代の
(原文)
いにしへのひじりの御世の政をもわすれ、民の愁、国のそこなはるるをも知らず、よろづにきよらをつくしていみじと思ひ、所せきさましたる人こそ、うたて、思ふところなく見ゆれ。
「衣冠より馬・車にいたるまで、有るにしたがひて用ゐよ。美麗をもとむる事なかれ」とぞ、九条殿の遺誡にも侍る。
順徳院の、禁中の事ども書かせ給へるにも、「おほやけの奉り物は、おろそかなるをもてよしとす」とこそ侍れ。
(舞夢訳)
過去の聖天子の御代の、理想とする政治などは忘れてしまい、国民の憂いや、国そのものが衰えを見せていることなどは眼中にない。
全てにおいて、自らの周りを華美に飾り立てそれを得意に思い、大きな顔をしている人などは、実に分別というもののカケラも理解していないと思う。
「衣冠から馬や牛車にいたるまで、ありあわせのものを用いなさい、美麗などは求めるべきことではない」と、九条殿の遺誡には、しっかりと書かれている。
また順徳院が、宮中のことについてお書きになられたものの中にも、
「天皇が身につけるものは、簡素なものが、最も好ましい」とある。
※九条殿の遺誡:左大臣藤原師輔(908~960)
※順徳院:後鳥羽天皇第三皇子順徳天皇(1197~1241)、承久の乱の後、佐渡に配流となる。「禁秘抄」という宮中の行事、儀式、政務等を記した故実書を残している。
兼好氏在世中の権力者の贅沢ぶりを、過去の時代の禁欲的な態度を持ち出し、批判をしている。
実際には、どれほどの贅沢であったかは、その時代でないとわからない。
しかし、他人のことなど全く考慮しない権力者は、今の時代にも存在する。
億単位以上の不正蓄財とか、不正流用とか、いろんな報道があるけれど、普通の生活をしていると、全く実感などわかない金額。
兼好氏が、昨今の新聞、ニュースを見たなら、どんな評価を下すのだろうか。
少し気になっている。
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