第157話第百十三段 四十にも余りぬる人の

(原文)

四十にも余りぬる人の、色めきたる方、おのづから忍びてあらんは、いかがはせん、言にうち出でて、男・女の事、人の上をも言ひたはぶるるこそ、にげなく、見苦しけれ。

おほかた聞きにくく見苦しき事、老人の若き人にまじはりて、興あらんと物言ひゐたる。

数ならぬ身にて、世の覚えある人を隔てなきさまに言ひたる。

貧しき所に、酒宴好み、客人に饗応せんときらめきたる。


(舞夢訳)

四十を過ぎた人が、異性の愛人ができて、秘かに忍んでいたとしても、特にそれほどどうと言うことはない。

しかし、それを、わざわざ言葉に出して、男女の営みの事や、他人のことまで面白がって語ってしまうようなことは、年相応とは思えず、実に見苦しい。

それにしても、聞きたくはなく、見苦しいことは、様々。

老人が若い人に混じって、懸命に座を盛り上げようとしゃべる様子。

どうでもいい低い身分でありながら、世間から名士と評価されている人に対して、親しい関係であるかのような、口ぶりで話す様子。

貧乏所帯でありながら、酒宴を好み、客人におもてなしをしようと、その身に余る派手な振る舞いをする様子。



下品な人、他人の目を気にしない人、自分自身の程度を自覚していない人の列挙である。

このような人は、兼好氏の周囲だけではない。

現代に生きる自分の周囲にも、数多くいる。

マスコミ情報にも、数多くある。


かつて、日本の某一流とは評価されていない芸人が、イチロー氏が日本でラストゲームをした際に、「イチローなんて単なる客寄せパンダ」とつぶやいて大炎上して、謝罪に追い込まれたけれど、確かに気分のよいつぶやきではない。

確かに言論や表現は自由であるけれど、発言した言葉や表現に、他人の気分を害する部分があれば、謝罪などの責任はある。


そんな、自由だけを主張して、他人を傷つけても何ら気にしない傲慢な人が多い、しかも増えているような気がするのは、私だけだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る