第268話第百九十段 妻といふものこそ(2)

(原文)

子など出で来て、かしづき愛したる、心憂し。

男亡くなりて後、尼になりて年よりたるありさま、なきあとまであさまし。

いかなる女なりとも、明暮添ひ見んには、いと心づきなく、憎かりなん。

女のためにも半空にこそならめ。

よそながら、ときどき通ひ住まんこそ、年月経ても絶えぬなからひともならめ。

あからさまに来て、泊り居などせんは、めづらしかりぬべし。


(舞夢訳)

子供などが生まれて、それを大事に守り育てるなど、実に面白くない。

男に先立たれて、尼となり、老境をさらしているのは、その醜態が男の死後まで続いている。

どんな女であっても、毎朝毎晩一緒にいて顔を見ていると、実に厄介で憎らしくなってくる。

なので、女性にとっても、落ち着かないことになるだろう。

別の家に住んで、時々通って来て住むというようにすれば、ある程度の年月を経たとしても、縁を切る仲にはならないと思う。

突然にやって来て、泊まっていくほうが、お互いに新鮮なのではないだろうか。


子供が生まれれば、その世話にかかりきりで、旦那など二の次、三の次。

年がら年中、顔を突き合わせていれば、うるさくて厄介で仕方がない。

夫婦が、所帯じみず、お互いに執着し過ぎず、適度な距離を保っていたほうが、長続きする。


これが兼好氏の結婚論になるけれど、納得できる部分もあり、なかなかそうはいかない部分もある。

男女の問題は、千差万別。

一緒でないと、とても無理の場合もあるし、喧嘩ばかりでは離れたほうがいい場合もある。

それぞれで決めればいいだけのこと思うけれど。


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