第269話第百九十一段 夜に入りて物の映えなし(1)

(原文)

「夜に入りて物の映えなし」といふ人、いとくちをし。

よろづのものの綺羅・飾り・色ふしも、夜のみこそめでたけれ。

昼は、ことそぎ、およすげたる姿にてもありなん。

夜は、きららかに、花やかなる装束、いとよし。

人の気色も、夜の火影ぞ、よきはよく、物言ひたる声も、暗くて聞きたる、用意ある、心にくし。

匂ひも、ものの音も、ただ夜ぞ、ひときはめでたき。


(舞夢訳)

「夜になると、物の見ばえがしない」と言う人には、実に落胆してしまう。

全ての物の美しさや飾り、晴れの場面も、実は夜にこそ、素晴らしく見えるのである。

そのため、昼は簡素で地味な姿であっても構わない。

夜には、きらきらとした、華やかな姿が、素晴らしい。

人の容姿も、夜の火影にあたり、美しい人はより美しく、物を言う声も暗い中で聴く、用心をした話し方は、実に奥ゆかしい。

匂いにしても、楽器の音にしても、夜はひときわ、素晴らしく感じるのである。




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