第266話第百八十九段 今日はその事をなさんと

(原文)

今日は、その事をなさんと思へど、あらぬ急ぎ、まづ出で来て、まぎれ暮し、待つ人はさはりありて、頼めぬ人は来り、頼みたる方の事は違ひて、思ひよらぬ道ばかりはかなひぬ。

わづらはしかりつる事はことなくて、やすかるべき事はいと心苦し。

日々に過ぎ行くさま、かねて思ひつるには似ず。

一年の中もかくのごとし。

一生の間もまたしかなり。

かねてのあらまし、皆違ひゆくかと思ふに、おのづから違はぬ事もあれば、いよいよ物は定めがたし。

不定と心得ぬるのみ、まことにて、違はず。


(舞夢訳)

今日はこのことをやってしまおうと思っていても、予想外の急ぎの用事が生まれて、そのことにかかってしまったままで、一日を過ごしてしまう。

あるいは、待っていた人には来れなくなるような支障が生まれ、頼んでもいない人が来る。

また、頼んであった仕事は予想とは違ってしまうとか、あてにもしていなかったことだけが成就する場合がある。

難しいと思っていたことが簡単に済み、簡単におわると思っていたことが悩みの種となる。

こんな状態で日々が過ぎていくのは、全く考えていたこととは異なっている。

一年のなかでもこのようである。

一生の間も、また同じになる。

そうかと言って、前々からあてにしていたことが全て外れるのかと思うと、時には外れないこともあるので、いよいよ物事はあてにならない。

全ては、不確実であると心得ておくことだけが、真実であり、間違いではない。



これは、兼好氏の言う通り。

どんな時代の人でも、共感を覚える段と思う。

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