第111話第七十九段 何事も入りたたぬさましたる
(原文)
何事も入りたたぬさましたるぞよき。
よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顔にやは言ふ。
片田舎よりさし出でたる人こそ、万の道に心得たるよしのさしいらへはすれ。
されば、世に恥づかしきかたもあれど、自らもいみじと思へるけしき、かたくななり。
よくわきまへたる道には、必ず口重く、問はぬ限りは言はぬこそいみじけれ。
(舞夢訳)
何事においても、深くは知らない様子であるのが、好ましい。
立派な人は、たとえ、よく知っていることであっても、それほど知識をひけらかすようなことはしないものである。
それに対して、片田舎から出て来た人は、とかく全てを知っているかのような、受け答えをするものだ。
それに際して、聞いている人の方が、とても恥ずかしい思いをすることがあるけれど、それより話している人が自分は偉いと思い込んでいる態度が、実に見苦しい。
よく知っている方面に関しては、必ず慎重な表現を行い、他人から質問されない限りは、自分からは語らないという態度こそ、立派であると思う。
兼好氏が接した、「片田舎から出て来た人」は、とかく、自己顕示欲が強いのだろうか。
自信満々に、自分が全てを知っていると、しゃべり散らす。
兼好氏などの、聞いているほうは、そこで示される知識には「ごもっとも」と思う時もあるけれど、それ以上に、片田舎から出て来た人の尊大な態度が、鼻持ちならない。
兼好氏は、そんなある意味、下品とも思えるような「おしゃべり」よりは、聞く人の必要に応じて、しっかりと慎重に受け答えをするほうが上品だと、語る。
この段については、全く同感。
「巧言令色鮮し仁」、「実るほど頭が下がる稲穂かな」。
とかく、自己顕示欲が強い人には、耐えがたいほどの「臭み」を感じてしまう。
そういう人は、ある意味、「自己承認欲求」の固まりで、中二病の変形なのではないかと思っている。
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