第330話第二百三十八段 御随身近友が自賛とて(6)

(原文)

一、賢助僧正にともなひて、加持香水を見侍りしに、いまだ果てぬほどに、僧正帰りて侍りしに、陳の外まで僧都見えず。法師どもを帰して求めさするに、「同じさまなる大衆多くて、え求め逢はず」と言ひて、いと久しくして出でたりしを、「あなわびし。それ、求めておはせよ」と言はれしに、帰り入りて、やがて具して出でぬ。


※賢助僧正:東寺一の長者。大僧正。

※加持香水:真言密教の行法の一つ。香水を神聖・清浄とするために行われる。


(舞夢訳)

一  賢助僧正のお供をして、加地香水の行を見た時のこと。

まだ式典が終わらないのに、僧正が式場から退出してしまった。

ところが。僧正と同伴した僧都は、一緒ではなかった。。

そこで、従者の法師たちを式場に戻して探させたところ、「同じような姿の僧侶が多くて、とても探せるような状態ではありません」と言って、相当時間が経ってから戻って来た。

そこで「これは困りました、貴方、探して来てください」と、僧正からお願いされたので、私は式場に戻って、僧都を連れ出して来たのであった。



法師たちが探すのに困難した僧都を、兼好氏が簡単に探して来たとの自慢話。

ただ、本来は加地香水の行は、全指定席のようで、法師たちが簡単に見つけるはず。

それを見つけられなかったのが、いささか理由が不明。

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