フロンティアの嵐作戦 7

 突然黒抗兵団たちの間に割って入って、あちらこちらでひっかきまわしている者たちの正体は何なのか?

 時間は少しさかのぼり、航空戦艦ビバ(略)から攻撃を受けた直後の天祖 智典たちのいる場所では…………


「……あぶねぇ、もう少し気が付くのが遅れたら全部おじゃんになるところだったぜ。しかし、もう撃ってこないところを見ると、こいつの能力が早速役に立ったようだなぁオイ」

「ヒヒヒ……あぁ、痛ぇ」


 高威力のビーム攻撃にさらされた荒野にいくつものクレーターと焼け焦げた跡が形成され、いくつか黒焦げになった死体が転がっているものの、智典自身は無事であった。

 彼はデストリエルの権能の副産物か、自分を狙う気配に非常に敏感になっており、肉眼で見えるかどうかギリギリの場所から発射された攻撃に対し、とっさに捨て駒たちにかばわせることができた。

 それだけでなく、智典が支配している究極の切り札――――苦悶のルヴァンシュは、ボロボロになりながらも、その能力をいかんなく発揮し、空を飛ぶ船の操縦者に何らかのダメージを与えることに成功したようだ。


 このルヴァンシュという男は、一見するとよくいる腕利きのハンターのように見えるが、実は悪竜王の権能によって「自分に攻撃してきた相手に、自分に与えた者と同等の痛みを与える」能力を持っている。

 それだけでなく、彼はたぐいまれなる「被虐嗜好」の持ち主で、痛みを伴う攻撃を受ければ受けるほど、むしろ肉体的ダメージを回復するという非常にヤバい能力を持っている。

 つまり、先ほどルヴァンシュに攻撃したビバ(略)号による超高威力の攻撃の痛みは操縦者である環に跳ね返ってしまったのだ。

 そのせいで環は外傷がないにもかかわらず、身体の許容を越えた痛みに襲われ、身体がショック状態になってしまったというわけだ。


「そいじゃあ気を取り直して……どうすっかな、あいつらがいいかな! いってこい、被虐マゾ野郎っ!」


 そう言って智典は特殊な銃弾を装填すると、ミノア率いる竜人たちが戦闘を繰り広げている場所の地面に銃弾を撃ち込んだ。

 すると、ルヴァンシュを含むまだ残っていた洗脳済みの人々が銃弾が撃ち込まれた場所に転移していった。

 これは、智典がこの世界に来てから偶然手に入れた「転移の弾丸」というアイテムで、周囲にいる任意の対象を銃弾が命中した場所にワープさせる能力がある。

 智典は早速これを悪用し、自らが手懐けた捨て駒たちを遠距離から一方的に送り込むことができるのだ。


「さてと……さっきの攻撃のせいでもう捨て駒が尽きちまったなぁ。俺も一発ぶち込んだら、移動するとすっか」


 次に智典は、自らが持つ「デストリエルの権能」が込められた銃弾を、アンチマギアの部下に撃ち込んだ。

 このせいで、撃ち込まれた部下(マチ子)は強制的に洗脳下におかれ、アンチマギアの腹部をぶっ刺したのだった。


 そして、智典自身は転移の弾丸を別の場所に撃ち込み、彼自身が転移していった。

 スナイパーにとって、一つの場所での長居は危険だ。発射地点を特定されないために、この後彼は何度も場所を移動することとなる。




「ミノア様っ! またどこからか人間が飛んできました!」

「ええ、あたしもようやく何が起こったかわかったわ。さっき南の方角から銃弾が飛んできた、おそらく何らかの方法で銃弾に転移の魔法を付与して、送り込んでいるんだわ!」


 智典が放った銃弾が着弾すると、またしても目をガンギマリにした連中がミノアたちに襲い掛かってきた。

 だが、ミノアは彼らが転移してきた場所に南の方角から銃弾が飛んできたことに気が付いた。乱戦の最中だというのに、とんでもない動体視力である。


「南の方角と言えば、確かそっちにあかぎちゃんがいたはず。もしもし、あかぎちゃん、聞こえる?」

『どうしたのミノアさん?』


 ミノアは通信用の魔法道具を起動すると、遠くで戦っているあかぎに連絡を取った。


「今から言う座標にあたしたちを妨害する敵がいるの。このままだと味方に被害が出てしまうの! 頼めるかしら」

『まかせてっ!』


 こうしてミノアはあかぎにスナイパー退治を依頼したのだが……ミノアは中世ファンタジー世界での戦い方に慣れすぎていて、現代戦に適応していないのが仇になった。

 あかぎを向かわせた場所には、もう誰もいないのである。


 とはいえ、そんなことを知る由もないミノアたちは、天使たちと戦いつつ、ワープしてきた正体不明の勢力を迎撃することにした。

 そんな時、近くで戦っていたシャインフリートとトランが妙な気配を感じた。


「あれ? この気配、まさか……?」

「ねえシャインフリートっ!! あいつっ!!」


 トランが指さしたのは、服も肌もボロボロながら誰よりも狂気の笑みを浮かべている金髪の男だった。


「あいつから悪竜王の力が感じられる!!」

「なんだって!? ということは、転移してきたこの人たちは……」

「うん、間違いない。きっと悪竜王の洗脳を受けた奴らだ!」

「でも「デストリエル様」がどうとか言ってるけど、そんな悪竜いたっけ?」


 かつて悪竜王の支配下にいたトランは、転移してきたルヴァンシュから悪竜王の力の存在を感じ取った。

 そのせいで、正体不明の敵がまたしても悪竜王の手のモノだと勘違いしてしまったのだが…………状況的には中らずといえども遠からずではある。


「とにかく、このことを早くミノアさんに知らせないと!」


 シャインフリートはトランの言ったことをミノアに伝えるべく急行した。

 だが、一歩遅かった。ミノアは今まさに、ルヴァンシュと打ち合おうとしていたのだ。


「ゆくぞ、いざ尋常に勝負っ」

「悪いけど、今はそんなことしている余裕はないの! おねんねしててもらうわよ!」


「まってミノアさん、そいつはっ!!」


 シャインフリートの言葉が届く前に、ミノアの槍がルヴァンシュの胸を貫いた。

 その瞬間――――周囲の竜人たちにこの世のものとは思えない激痛が走ったのだった。



【今回の対戦相手 その1】『デストリエルの神官』天祖 智典

https://kakuyomu.jp/works/16817139557676351678/episodes/16817139558310887621


智典の能力に下記を追加


・転移の弾丸:

 自分の周りにいる任意の対象(人でも物でもよい)を銃弾が撃ち込まれた場所に転移させる。ただし、周囲に十分なスペースがない場合、転移は失敗する。

 また、生物に銃弾を当ててしまうと効果が発揮されない。(厳密には、ワープする対象が撃ち込んだ相手になってしまう)


・デストリエルの弾丸:

 智典が持つ「デストリエルの権能」を銃弾に付与し、銃撃した相手を強制的に洗脳してしまう恐ろしい弾丸。もちろん寿命消費効果もあるので、乱用は禁物。

 なお、神竜の祝福を受けた者には効果がない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る