フロンティアの嵐作戦 13
「ルヴァンシュよ……今はただ一人となった、愛しきワシの眷属よ」
『悪竜王――――陛下』
今こそ勅を下す。そなたの身体は、あの不遜な女神の片割れの一つを取り込んだ。今やそなたの存在は広き大地に屹立し、人間どもは蚤や
『――――御意』
悪竜王ハイネがあえてルヴァンシュを智憲の支配下に置かせたのは、まさにこの時の為であった。
天使と人間の激突と、漁夫の利を得ようとするデストリエルの信徒、それらすべてをたった一人の眷属ですべてをかき乱せるのであれば、使い捨ての駒としても十分すぎるほどのおつりが返ってくる。
世が世ならハイネは銭ゲバ悪魔フレデリカに匹敵する天才投資家であった。
(もっとも、デストリエルがこれを知ったら激怒するであろうが……)
とらえられていたルヴァンシュはハイネの手により回収され、危機的状況で切羽詰まった大天使サリエルに力を与えるという名目で、その体と魂、そしてハイネの力を融合させた。
「フフフ、ずいぶんとよく育ったものじゃ。壮観壮観。ルヴァンシュだけでなく、デセプティアにペルペテュエルの力も混ぜ込んだ。育ったものを刈り取り、次のモノに還元する。あの竜王にはできぬことじゃ…………惜しむらくは、マルシャンスの力を与えられなかったが、この際仕方なかろう」
隠れ家にしている拠点から、遠見の術でくつろぎながら戦況を睥睨するハイネは、今までにない有頂天な気分であった。
今まで培ってきた技術の集大成の一つともいうべき怪物――アースエンドは、竜、天使、悪魔、人間、植物といったあらゆる生命の力の発現と暴走ひとまとめにした究極の生命体だ。
際限なく巨大化する超生命体に対し、万にも満たない人間たちは苦戦を強いられている。
その光景が、ハイネにはたまらない娯楽であると同時に、人間たちの苦悩と悪意がルヴァンシュの核を通じてハイネの糧になっていくのを感じる。
「ククク、失望させるなよ人間どもよ。最後の最後まで全力で足搔いてみよ」
×××
「やはりな、ワシが見込んだ通りじゃ。お主には天賦の才能がある。わずか数分で操縦をものにするとは」
「うぅ……なんだか人間としての尊厳を失った気分だ」
「そう愚痴るな。お主はエースパイロットになるのじゃ、胸を張るがよい」
戦場となる贖都エテメナンキから少し離れた上空では、操縦性を取り戻したビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号が戦場に向かうことなく同じ場所を周回したり、高度を上げ下げするなど、まるで試験飛行のようなことをしていた。
なぜなら、この航空戦艦の中で操縦者の交代が行われたからだ。
「ヒッチハイク」と称して仲間になったのは、仮面をつけた素っ頓狂な少女と、やや疲弊気味の青年にどこか陰気な気配を漂わせる黒ずくめの少女……そして顔に大きな「×」の傷を持つ女性の火竜だった。
航空戦艦相手にヒッチハイクなど前代未聞であるが、玄公斎はモンセーとのやり取りの際に男性――シンイチロウ・ミブとは何度も面識があったので、少なくとも敵ではないことを確認してヒッチハイクに応じた。
通信機から流れてくる情報を聞いている限り、現在の戦況は一転して非常に厳しい。それゆえ、少しでも戦力の増強になるのは大歓迎だったが…………玄公斎はここでとんでもない手段をひらめいた。
「ちょうどよい、おぬしになら任せられる」
「任せられるって、何をです?」
「
「え?」
シンイチロウがあらゆることをそつなくこなせることを知っていた玄公斎は、なんと今まで環に任せていたビバ(略)号の操縦を全て彼に委ねることにしたのだ。
彼はあっという間に操縦席に(半ば無理やり)座らされると、あっという間に生体操縦端子をあちらこちらに巻きつけられた。
その見た目はさながら拷問か洗脳のようであったが、なんだかんだでシンイチロウはすぐに操縦方法を体得していき、旋回や加速、武装の発射を数分の訓練で一通りできるようになったのであった。
「ごめんなさいね、おばあちゃんも戦場に出なきゃならなくて」
「いや……ご老人が戦場に出るのは、むしろ止めたいんだけど」
「やっぱり男の子だから全線で戦いたいでしょうけど、戦闘兵器のエースパイロットも女の子にモテるのよ♪」
「キャー、シンイチローサマ、カッコイー(棒)」
「おだてるならせめてもっと抑揚をつけてくれないかな……」
無責任に囃し立てる仮面の少女に思わず深くため息をつくシンイチロウだったが、なんだかんだでこの飛行船間丸々自分の武器となると考えると、自分以外には任せられないという思いも募るものだ。
「すまないが、ワシもいよいよ戦場に立たねばならん。操縦と戦場での援護射撃を頼む」
「わかりました…………ですが、さすがに一人だと何かあった時に拙いので、ジョーカーは僕のそばに置いておいてくれますか」
「それは構わぬ。なんなら、おぬしら全員この船で待機しておってもよいのじゃが」
「それは逆に勘弁してください。レダさんはともかく、そこの仮面バーサーカーはこの中に置いておくとロクなことをしなそうなので」
「うっひょー! ボタンがたくさんある! 自爆スイッチとかあるのか? 全部押してみたい!」
「これよさぬか腕白者」
とりあえず、先ほどからコックピットのボタンを片っ端からいじりたそうに目を輝かせている(と思うが仮面の下なのでよくわからない)少女を、少しでも早く戦場に放り出さないといろいろと危ない。
「それで、おぬしはどうする? やや手負いのようじゃが、厳しいのであれば療養に専念するとよい」
「……いえ、私も戦うわ。確かに万全には程遠いけど…………向こうから何かに呼ばれている気がするの」
その一方で、どこか黄昏たようにずっとモニターを見ている火竜レダは、玄公斎に返答するもその瞳はどこか虚ろであった。
ともあれ彼らは、苦戦する黒抗兵団を救うため、操縦者を交代して戦場へと飛び立った。
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