フロンティアの嵐作戦 14

 爆音とともに地面が激しく震え、巨大なクレーターが形成される。

 竜や天使をはじめとしたさまざまな生物が融合した究極生命体「アースエンド」は、文字通り「惑星を壊す」ような勢いの攻撃を連発し、黒抗兵団たちを確実に消耗させていった。


「ゲホッゲホッ、みんな生きてる?」

「はい隊長……しかし、このままではアレに傷一つつけることができません!」


 ミノア率いる竜人部隊は、全員で盾を構えたうえであかぎとシャインフリートの攻撃で威力を相殺することで何とか攻撃を耐え忍んだ。

 それでもTNT爆薬3トン分以上ある威力の破壊のブレスはすさまじく、ほぼ全員が多かれ少なかれダメージを受ける羽目になった。


『だ、大丈夫ですかミノアさん!』

「シャインフリート君……あたしたちは平気よ。むしろ、君の方がダメージが大きいよ!」

「味方と合流したいけど、敵の向こう側だし…………」


 想定していなかったとはいえ、戦い始めから一大将たちがいる本隊とは真逆の方角に降り立ってしまった彼らは、味方と合流することができず、苦しんでいた。

 一度戦場を大きく迂回することも考えたが、そうすると敵の攻撃が一気に本体の方角に集中することとなり、非常に危険だ。

 捨て身で戦い続けるか、味方を危険にさらしながらもいったん撤退するか、早急に決断しなければならない――――といったところで、ミノアとあかぎの通信機にいいニュースが舞い込んできた。


『待たせたな皆の者! この不利な戦況をよくぞ耐え抜いた!』

「おじいちゃん!」

「ヨネヅさん!」


 そう、戦線離脱していたビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号がようやく戦場に戻ってきたのだ!


「通信機で状況は把握しておったが、なかなかとんでもない生物が現れたものじゃな。あのような相手はこの無駄に長い人生を通しても見たことがないわい」

「接敵まであと30秒。攻撃するか?」

「いや、今は牽制だけにとどめよ。どうやら天兵団の者どもが取り込まれているらしい、下手に撃てば味方に損害が出る。まずは奴らの救出からじゃ」

「しかしどうやって」

「まずはワシらをあかぎのところまで運んでくれ。そうしたら次に、アンチマギアを一度回収せよ。その後は…………」


 玄公斎は操縦中のシンイチロウにこの後の作戦の流れを説明すると、彼はたちまち青ざめた。


「ヨネヅさん! それはいくら何でも…………!」

「ワシとて好きでその方法をとるわけではない。撃破の手立ては、今のところこれしかない。情けないことにな……。シンイチロウよ、代案は思いつくか? あと10秒で」

「無理ですね」

「うむ、辛いものがあるのう。では、予定通りに降下準備じゃ」


 シンイチロウはまだ納得していないが、もうあと数秒で戦場に突入するというところで意識を切り替えて操縦に専念する。


「突入」


 低空飛行に移ったビバ(略)号に、アースエンドはすぐに狙いを定め、破滅のブレスを放つが、速すぎてあたらない。


「のんびり降下している暇はなさそうじゃな、かあちゃん、頼む」

「はい、おじいさん」


 今は一刻一秒を争う事態ゆえ、玄公斎は着陸するのを待たず、あえてから環の手を取って自らの身体を空中に投じた。

 こんな装備があるのも正直どうかとも思うだろうが、人間砲弾になりたがる連中が多いので、意外に重宝しているようだ。


「じゃあ、私も行こうかしら…………なぜかしら、同胞の香りがするの」

「オレ様はもっと敵の近くに行ったら下ろしてくれ! あんなデカブツと戦うのもすげー久々だから、楽しまねぇと、な!」


 仮面の少女はもう少し降下のタイミングを見計らうようだが、火竜レダはやはり何かに惹かれるように米津夫妻の後を追った。

 玄公斎と環は地上数百メートルの空中に飛び出すと、環の空を飛ぶ力で滑空していく。環は先ほどの大ダメージからまだ完全に立ち直っているとは言えないが、顔色一つ変えずにあかぎやミノアたちがいる場所まで降下していった。


「あかぎ、そしてミノアにシャインフリートよ、活躍は通信で聞いておったぞ。ワシがいない間に、よくぞ第三勢力を倒した」

「おじいちゃん! おばあちゃん! そっちこそ、怪我はない?」

「ええ、私は大丈夫よ。ちょっと情けないところを見せちゃったわね」

「あれ? 環さんがいるってことは、あの船は誰が操縦してるの?」

「モンセー殿の副官を途中でした。操縦は彼に任せている」

「あの空飛ぶ戦艦でヒッチハイクって…………」


 玄公斎たちがあかぎらと戦況を確認しているさなか、二人についてきた火竜レダも同じ場所に着地した。


「ヨネヅさん、この子たちは…………うん?」

「え? 火竜?」


 するとすぐに……レダとあかぎはお互いに目が合った。


「火竜……カリュウ……」

「ど、どうしたのあかぎちゃん!? なんか様子が変だよ!?」

「いけない! 確かあかぎは竜を見ると……!」


 あかぎが(光竜と神竜以外の)竜を見ると我を失ってしまうことを知っているシャインフリートとトランは激しく動揺したが、玄公斎と環は止めなかった。

 米津夫妻は、あかぎがあの地獄の修行を乗り越えた今なら、そのようなことは起きないと確信していたし、もし起きたとしたらすぐに止めるつもりであった。


 その一方でレダは―――――


「まさか、あなた…………『原初の火種』を……!?」


 彼女はすぐに、あかぎの体の中に求めてやまなかった『原初の火種』があることを知った。

 火竜であればなんとしてでも自分のモノにしたいものが、まさに目の前にある。



 だが、彼女はあかぎの前から動けなかった。

 あかぎを見た瞬間、彼女の背後に太陽のような巨大な火球が現れたかのように見えた。

 その巨大な火球は、熱さを苦痛としない火竜ですら思わず「あつい」と感じてしまうほどの莫大な熱量であった。


『竜をコロセ…………我らの苦しみを、奴らに倍にして返してやれ……』

『すべて燃やす、すべて焼き尽くす、焼き尽くして――――』

『私は永遠に恨む。家族を、友を、すべてを燃やし尽くした竜を恨む』


 そして、レダを取り巻くように無数にあふれる呪詛の数々。

 で届くことがなかった、蹂躙された生き物たちの激しい憎悪が、今この時になってレダに直撃したのだ。



「う、うあぁぁ…………」


 わずか1秒ちょっとの間に、まるで永遠の責め苦のような時間を感じたレダは、周囲が驚く中、その場にゆらりと崩れ落ち…………あかぎの前に跪いた。


「『火種の主』よ……あなたは私が敵う相手ではありません。御許し頂けるのであれば、不肖この火竜レダ、隷属させていただきたく存じます」

「…………いいよ、許してあげられるかはわからないけど。そのかわり、あたしのことを、師匠って呼んでね」

「承知いたしました、師匠」


 なんと、出会った瞬間に火竜レダは自らあかぎにこうべをたれ、部下になる…………というよりも、舎弟になることを望んだ。

 あかぎのほうも何かを察したのか、彼女を受け入れることにする。


 あまりの急展開に周りが唖然とする中、玄公斎はただ一人ぽつりと


「もう孫弟子ができたか。早いものじゃのう」


 と、つぶやいたという。

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