強行軍

 三首竜を撃墜し仲間たちが喝采に叫ぶ中、新しい船(?)を手に入れた赤髪の女海賊船長アンチマギアは、浮遊する船をゆっくりと着陸させると、ドヤ顔でタラップを降りてきた。


「よお爺さん、あかぎ、久しぶりだなぁ! アンチマギア様の新しい船はどうだ? とってもゴキゲンな強さだと思わないか?」

「うむ、よくぞ駆けつけてくれた。おかげでとても助かったが……果たしてそれは船なのか?」

「なんかあたしが思う「船」と全然違うんだけど」

「言うと思った! 実をいうとな――――」


「おんどりゃ!! よくも私の獲物を横取りしやがったな! 死ね!!」

「おふっ!?」


 新しい船を自慢しようとしたところ、突然現れたリヒテナウアーに横から思い切り殴られるアンチマギア。


「てめっ、何しやがんだこのすっとこどっこい!!」

「うるせぇっ!! このコスプレ海賊女が!!」

「この私が、コスプレだとぉ」

「やめぬかおぬしら。あのようなで見みっち争いをするでない」

「「……」」


 実際はちっとも「小さな獲物」ではないのだが、玄公斎の言葉は二人にある程度効いたらしく、双方とも素直に矛を下した。


「ちっ、次は私が先に大物を仕留めてやるからな、覚えとけよ! あと、お前は私の近くに寄るな。なんとなく私の転移術が使えなくなって、死んでも残機が復活しない気がすんだ」

「嫌に具体的じゃな。まあよい、とりあえず先にこの船のことについて聞こうか」


「それについては私から説明しましょう」

「今度はなんじゃ……」


 タラップの方からまたしても別の声がするのでそちらの方を向くと、何やら白いローブで首から下をすべて覆っている、女性とも男性ともとれる、眼鏡をかけた若い人が姿を現した。


「初にお目にかかります。私はシャザラックと申します。あなたが「ホテル阿房宮」のオーナーにして、黒抗兵団第1中隊の元締、米津玄公斎様ですね」

「これはご丁寧に。いかにも、ワシが米津玄公斎じゃ」

「こちらのアンチマギア様がドックで船の修理を行っていた際、たまたまお話しし、船の強化を行えばタダでホテルに泊めてもらえるとのことだったので、ありがたくお世話になりました」


 玄公斎はアンチマギアの方に視線をぎろりと向ける。

 アンチマギアはリヒテナウアーに殴られて鼻血を出したままの顔で、わざとらしく口笛を吹いていた。


 ともあれ、話を聞くとこのシャザラックという女性(自らを女性だと言った)は、この世界に最近来たばかりの流れの技術者で、自らの腕を生かせる場所を探していたところアンチマギアの船に目をつけ、改造を施したのだという。


「待て待て、改造とかいうレベルではないぞこれは。私が見たときは穴だらけの木造船だったじゃないか。それが何がどうすれば宇宙戦艦になるんだ」


 智香も思わず突っ込んでしまうように、もはや元の海賊船の面影が全くないどころの話ではない。そもそも、これだけの改造を施すための資材や資金はどこから引っ張り出したというのか。


「資材についてはたまたまインベントリに手持ちがありました。資金については、フレデリカさんという親切な悪魔さんが融資をしていただけると」

「…………いくら借りた?」

「ざっと100億程。思っていたより安く済みました」


 玄公斎は思わずめまいを覚えそうになった。

 それはさておき、膨大な資材と資金をつぎ込んでかなりの急ピッチで改造された新しい海賊船「ビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号」は、見た目にたがわぬすさまじい性能を誇っている。

 全長およそ550m程度、全高約70mくらい。「宇宙戦艦」にしては若干小ぶりであり、船というよりも「全翼機」をほうふつとさせる平べったい鳥のような形状をしている。

 主な攻撃手段は艦首に積まれたイオンビーム砲「ウルトラブルアンチマギア船長キャノン」のほか、連射の効く4連装プラズマ砲「スターダストライトニング」と、中性子投射砲が1門と、なかなかのビーム脳編成である。


「なるほど、話は分かった。経緯はともあれ、このような強力な兵器が利用できるのは非常に心強い。感謝するぞ、シャザラック殿」

「もちろんです。私の作る兵器はですので」


 そういってシャザラックはわざとらしく眼鏡をクイっと押し上げた。

 玄公斎は何となくこの女性も変な性格をしているなと感じたのだが、それ以上に……


(生命力が感じられぬ。さては人造人間アンドロイドか……?)


 目の前の女性から生物の持つ生命力が一切感じられないことから、シャザラックはアンドロイドなのではないかと玄公斎は感じた……が、今それを聞くのは流石に失礼すぎるかと思い、言わないことにしたのだが


「ってかお前、ぶっちゃけロボットだろ。生命力を全然感じないぞ」

「はい、私はロボットです」


 リヒテナウアーが彼女のことをロボだと確信し、シャザラックもすぐに肯定した。

 玄公斎は自分の気遣いは無駄だったのかと心の中でため息をついた。

 そんななか、アンチマギアが何やら懐のあたりをガサゴソとまさぐっていた。


「おっとそうだ、爺さん。あのユキトっていうイケメンから手紙預かってきた」

「手紙とな……そうか、今まで通信が途絶しておったからな」


 玄公斎はアンチマギアから部下の雪都からの書簡を受け取ると、おもむろに開いて読み始めた。


「…………なるほど、こことは真反対のエリアで大規模な危機が発生しているらしい」

『大規模な危機!!』


 黒抗兵団たちは一様に顔を見合わせた。

 彼らは激戦を終えたばかりであり、しばらく休養が必要になりそうなのに、遠くのエリアで味方が危機に陥っているというのだ。


「仕方あるまい、動ける者だけで救援に向かうぞ。リヒテナウアーとあかぎは大丈夫そうじゃな」

「うん、おじいちゃん! たくさん食べて寝たら元気になった!」

「おっしゃ、ラッキーだな! 存分に暴れてやるぜ!」

「おいおい、アンチマギア様を忘れるなよ!」

「僕も一緒に行くよ! 相手が竜なら僕の出番だ!」

「マリアルイズ殿、すまないが負傷兵たちの看護を任せた」

「わかりました。グリムガルデさまがいらっしゃいますから、ご安心ください」


 こうして玄公斎たちは動ける人員をかき集め、空飛ぶ海賊船「ビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号」に乗り込んだ。

 あかぎやリヒテナウアーをはじめ、智香をはじめとする中核メンバーに、ともに戦う道を選んだ光竜シャインフリート、そして船長のアンチマギアというなかなか豪華な顔ぶれだった。



×××

ソルト様(またはビト様)


 とりあえず、年末は「危機」の設定に時間を割きたいので、しばらくうちの主力を適当に使ってください。

 使わない場合は、後で「増援に来たけど間に合わなかった」ということで済ませますので、無理に使う必要はないですが。


 ちなみに今回登場した「ビバ・(略)号」のイメージは「イリアシオン級」でググってみてください。

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