空飛ぶ シンドバッド

「というわけで、今日からこのリヒテナウアー殿が黒抗兵団に加わってくれた。皆の物、仲良くしてやってくれ」

「ようてめぇら、あのエッツェルと殴り合いすんだって? 面白そうだから私も混ぜてもらうことにした! 飽きるまではお前らの側で戦ってやるから、感謝しとけ!」


 あの激戦があった次の日の朝、動ける余裕のある黒抗兵団メンバーを集めた玄公斎は、彼らの前でリヒテナウアーが(一応)仲間に加わることを紹介した。

 2メートル近い巨体と、ごつい古代鎧、そして戦いの最中でもないのに飢えた肉食獣のような恐ろしい表情を見せるリヒテナウアーを見て、メンバーたちの反応は様々だった。


「え、えと……よろしく?」

「まあ、どんな出自であれ、ともに戦ってくれるというなら」

「なあ元帥殿…………こんなこと言うのは何だが、信用できるのか?」


 明らかに悪役のようなキャラだが、かといって一緒に戦うのは嫌とも言えず困惑する者もいれば、力を貸してくれるならそれで十分と割り切る者もいる。

 ただ、全体の統括の一部を担う智香は、明らかに問題児になりそうなうえに、容易には抑えられない戦力が加わることに不安を覚えている。


「おぬしらの不安はもっともじゃ。ワシもおぬしらと同じくらい若かったら、同じような不安を持つじゃろうな。確かにリヒテナウアー殿は戦乱を愛し平和を憎むアウトローじゃが、敵味方の分別くらいはつく」

「ヒヒヒ、お前らの反応は想定の範囲内だ。私の邪魔さえしなきゃ殺しはしないからな」


 あまり歓迎されていない雰囲気なのは、普通の人なら不機嫌になるだろうが、リヒテナウアーにとってはこの程度想定の範囲内だ。

 むしろ、自分を仲間として戦力に加えよう考えた玄公斎の胆力が異常なのだ。


「で、爺さん、この後どうすんだ? 今はちんたら歓迎会やってる暇なんてねぇんだろ?」

「うむ、昨日あれだけ激戦を繰り広げたのじゃから1日ほど休ませたいのじゃが、どうやら西側で昨日に匹敵するほどの危機が発生しているらしい。そこに向かうための足を手配中とのことなのじゃが…………ん?」


 玄公斎が今後の予定を説明しようとしたところで、町の郊外の方から大きなサイレンの音が鳴り響いた。

 魔獣の襲撃が迫っているという合図だ。


「暴れ三首竜だーーーー!!」


 一難去ってまた一難とはまさにこのことか。

 この世界に最近現れた魔獣「三首竜サーベロイ・ドラッヒェ」が上空からこちらに向かってくるのがわかった。

 全高40m、全長55m、そしてキング〇ドラのごとく長い首が三つある黄土色の鱗を持った怪物であり、この世界に住む竜とは少々異なる生体をしている。


「敵襲か…………マリアルイズ殿、街の防備は?」

「先ほどの戦いでは使用できませんでしたが、この街には結界ジェネレーターがありますわ。しかし、相手はうわさに聞く凶悪な三首竜……そう何度も攻撃を防ぐことはできません」

「なるほどのう」


 幸い、大瀑布周辺は貴族や大富豪が集まっている関係であらゆる防備が備えられており、リージョン丸ごと覆う結界を発生させる大出力のジェネレーターを使えば、街への被害はある程度防ぐことが可能だ。

 だが、マリアルイズ女男爵の言う通り、相手はかなり強力魔獣であり、口から吐き出すビーム砲は大都市を一瞬で焦土に変える威力がある。

 そのうえ、三首竜は基本的に高高度を巡行する生き物なので、こちらからの攻撃が届きにくいのが厄介なところだ。


(母ちゃんが力を発揮できれば少しは余裕があったのじゃろうが、今無理させるわけにはいかん)


 玄公斎はちらりと横を見る。

 昨日から誰にも認識されない美女……環は力なく首を振った。

 今の彼女には無理をできるだけの力も残っていないのだ。


 しかし、都合のいいことに、代わりに力が有り余っている仲間がいる。


「よっしゃ、三首竜だか何だかしらねぇが、私の強さを見せつける絶好の機会だ。お前らはそこで黙ってみてろ!!」

「いや待て、相手はまだ見えないほど上空にいるんだぞ、どうやって戦う気だ」


 どうやらリヒテナウアーは一人で三首竜をやっつけに行く気のようだ。

 智香がどうやって戦う気だと突っ込むが、彼女は意に介さない。


 そうこうしているうちに、三首竜の攻撃が街を襲う。

 ようやく地上から肉眼で見えるほどの高度まで下りてくると、三つの首から濃い紫色の光線を吐き出した。

 街を覆う結界がこれを何とか受けきるが、予想以上に消耗が激しい。


「よっしゃ、ここまで下りてきたのなら私が――――」


 そういってリヒテナウアーが何かしようとしたとき…………

 三首竜が横から何かの砲撃を連続で受けた。


「「「は!?」」」


 唖然とする黒抗兵団のメンバーたちが、砲撃がきた方向を見れば、そこには驚くべきものが浮かんでいた。


『はーっはっはっはっは!! 新生アンチマギア海賊団、参☆上!! を捨てる相手はお前に決めた!!』


 スピーカーから大音量で響くのは、海賊船を修理していたはずのアンチマギアの声。

 そして、空中に浮かぶ、全体が黒色に塗装された、まるで鳥のような形状をしたやや平べったい、巨大な飛行機のような船のような物体…………


 突然現れた邪魔者の存在に三首竜は怒り狂い、謎の飛行物体めがけてビームを放つも、前面に展開した青色のシールド素子により無力化されてしまった。


『オラァ! その程度の攻撃じゃ、この「ビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号」はびくともしねぇぜ!! お返しだ、ミラクル・アンチマギアキャノン、撃てーーーーーーーっ!!』


 再び浮遊船「ビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号」からの攻撃。

 先ほどは物理的な砲撃だったが、今度は艦首の下側が開き、そこにエネルギーが蓄積されると、爆音とともに極太のビームが発射され、一瞬で三首竜に直撃。

 敵対生物の三首竜は大ダメージを受けた。


 突然現れた強力な援軍に、黒抗兵団のメンバーたちは歓声を上げたが……

 一人だけ気に食わない顔をしている。


「なんだあいつは、ふざけているのか!! 私の獲物を横取りする気だな!!」

「いやいや、さっき智香さんが言ってるけど、空の敵にどうやって攻撃するの!?」

「うるせぇ! 為せば成る! 首なし騎士なめんな!!」


 手柄を横取りされるのがよほど嫌なのか、デュラハンであるリヒテナウアーは、自分の特性を悪用し、三首竜を肉眼に収めるや否や相手の背中に瞬間移動した。

 もう無茶苦茶である。


「乗っかっちまえばこっちのもんだ!! その気持ち悪い三つの首をへし折ってやる!!」


 背中に乗ったまま、リヒテナウアーが脳天めがけて勢いよく斧を振り下ろす。


『GYAAAAAAAAAAAAAA』

「あんな糞みたいなビームより私の愛のこもった一撃の方がよっぽど効くだろ!! もう一度食らわせて――――――ぬあああああああああ」


 真ん中の頭に大打撃を与えて悦に入ったのもつかの間、今度は浮遊船から細かい電撃が無数に発射され、リヒテナウアーを容赦なく巻き込みながら三首竜にダメージを与える。

 なかなかしぶとかった三首竜だったが、立て続けに猛攻を食らったことと、リヒテナウアーに頭をつぶされたことが決定打となり、姿勢制御ができずそのままきりもみ回転しながら地上に落下していったのだった。

 


【今回登場したエネミー】三首竜サーベロイ・ドラッヒェ

https://kakuyomu.jp/works/16817139558351554100/episodes/16817139558499669791

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