禁じられた遊び 中編(VS空虚のペルペテュエル)

 米津夫妻が無人の廊下を進んでいくと、すぐに意味深な赤い扉が待ち構えていた。

 扉の先からはそれなりの密度の魔力が感じられ、何かありそうなことは疑う余地もなかった。

 二人は顔を見合わせて頷くと、一緒に扉を開けて部屋の中へと歩みを進めるのだった。


「これは、まるで人形の展示会のようだ」

「とってもかわいらしいじゃない。こんな風にお人形に囲まれたお部屋、女の子のあこがれの一つじゃないかしら」


『じゃじゃーん! 私とお人形さんのお部屋へようこそ! えへへ、まずはお友達といっしょにかくれんぼしよー!』


 かくれんぼ――――その言葉と、周囲の状況から玄公斎は早速いろいろと察したが、黙って謎の声の話を黙って聞き続ける。


『えーっとね、次の部屋に進むためのカギをその部屋の子たちの誰かがおなかの中にもってるから、がんばって探してね! ただし~~3ぷん以内に見つけられなかったら…………罰ゲーム!! それじゃあ、スタートっ!!』


 ペルペテュエルの合図とともに、どこからか鐘の音が響いてきた。

 今から3分以内に探さなければ、二人は何らかの罰ゲームを食らってしまう。


 だというのに、米津夫妻はあくまでも落ち着いていた。


「どこかで聞いたことのある仕掛けねぇ。人形のおなかを引き裂いて探すのはちょっとかわいそうな気もするけど」

「ともあれ、先に進むために鍵を探さなければいけないし……ふむ」


 玄公斎はおもむろに正面に座っている、体長1メートル以上ある青色の毛むくじゃらの人形前に立った。



(クスクス……そのままおなかの中を破いてごらん♪ お人形の『キジー』が頭からパクっとしちゃうから♪)


 どこからか部屋の様子を見ているペルペテュエルが、キジーと呼ばれた毛むくじゃら人形に近づいていくのを見て、無邪気な表情でワクワクしていた。

 ゲーム参加者が人形の腹をまさぐれば最後……人形の頭が参加者の頭に丸ごと噛みついて、場合によってはそのままかみ砕くという寸法だ。


 ところが、今回の参加者はペルペテュエルの予想をはるかに上回る乱暴者であった。


「ていっ!」

『えっ』


 なんと玄公斎は、目の前の人形を何のためらいもなく一刀両断!

 切り裂かれた毛むくじゃらの人形の中から、文字通りの「腹綿」が噴出して、真っ二つにされたのだった。


『ちょっと! お人形さんになにすんのよ! やばんじん!』

「何するも何も、武器使っちゃダメとは聞いてないし。僕たちは罰ゲームがかかってるんだから、手段は択ばないよ!」


 館の主から抗議もむなしく、玄公斎は周囲の人形を次々に切断していく。

 ペルペテュエルが唖然としている間にも、人形たちが綿くずとなっていき、その数秒後には見事にカギを収めていた人形が暴き出された。


「よし、金属音! そのウサギの人形だね! かくれんぼは僕の勝ちだ!」

『だめーっ! はんそくはんそくはんそくーっ!! 君みたいな乱暴には罰ゲームにしてやるっ!』

「えー、約束が違わない? 一人前のレディなら約束守ろうよ」

『うるさーい! この家では私がルールなのっ! みんな、こいつをやっつけちゃえ!』


 乱暴な方法でゲームを勝利されたことで癇癪を起こしたペルペテュエルの命令で、今まで座っているだけだった無数の人形たちが立ち上がり、一斉に牙をむいてきた。

 おそらく、今までに討伐に赴いた連中もこのような形で始末してきたのだろう。


「だめだよ……おもちゃは大事にしなきゃ、ね!」

「そうよ、きちんときれいにしなきゃ」


 襲ってくる人形を、まるで流れ作業か何かのように切り捨てていく玄公斎。

 いくら子供の姿になってしまったといっても、その刀さばきは非力を補って余りある切れ味となる。

 ところが…………


『そうだね……おかたずけ、しなきゃ!!』

「むっ!?」


 今度は人形たちが近くまで来た瞬間に自爆し始めた。

 なんとか自前の魔術結界で爆炎を防いだが、その威力は手榴弾並みにはあるようで、至近距離で食らえば大けがでは済まない。


「仕方がない、一気に片を付ける!」


 念のため力を温存していたが、玄公斎は一気に決着をつけるべく、刀を構えてから瞬間移動を連発し、すれ違った人形を爆発させる前に一刀両断していく。

 最終的に十数秒もしないうちに、あれだけたくさんあった人形は全滅した。


「よーし、もう止めるものはなさそうだ。先に進もう」

「ええ」


『ぬぬぬぬぬ…………こうなったら次のゲームはっ!』


 探り当てた鍵で次の扉を開いて進むと、そこは見通しの悪いくねくねした通路だった。

 二人が先に進んでいくと、またしても後ろの扉がひとりでに締まり、一体の巨大なずんぐりむっくりの赤ちゃん人形が降ってきた。

 その大きさは3メートルを超えており、その無機質な表情もあって、普通の人が見れば非常に恐ろしく感じただろう。


『お人形さんと、鬼ごっこ!! あははは! 早く逃げないと踏みつぶしちゃうぞーーーーーってあれ?』


 人形が威圧するようにズシンと一歩を踏み出したが……その時にはすでに米津夫妻の姿はなかった。


「とりあえずあれは面倒だから無視で」

「そうね」


 彼らはペルペテュエルの説明をまるっきり無視して、人形が追ってくる前にとっとと通路を猛スピードで先に進んでいたのだった。

 はっきり言って、二人が逃げる速度はペルペテュエルの想定をはるかに超えており、ギミックとして迫ってくるはずの人形は一向に追いつくことができなかった。


『うわーーーん!! まってぇぇぇぇーーー!!』


 ゲームのお約束を丸々無視した二人は、曲がりくねる上にところどころ罠や落とし穴がある通路を、まるで無人の野を行くがごとく攻略していった。

 そして、数分後には一番奥の扉にたどり着き、カギがかかっている扉を環の圧縮空気で無理やり吹き飛ばしたのだった。


「うん……? ここは?」

「なんだかさっきと違って、とても生活感のある部屋ね」


 たどり着いた部屋は、まるで今でも誰かが住んでいるかのように、人形やおもちゃが散らかっていた。

 おそらく、屋敷の主の部屋なのだろうが、肝心の住人はここにはいないようだった。


「何か探ってみようか」

「ふふふ、他人の部屋をまさぐるなんて、ドキドキしちゃうわ」


 二人は住人がいないことをいいことに、あちらこちらを片っ端から捜索し、プライバシーを丸裸にしていく。

 すると、環が興味深いものを見つけた。

 

「ねえシロちゃん、これを見て」

「日記帳……もしかしたら、あの子供の声……ペルペテュエルとやらの何かがわかるかもしれない」


 こうして米津夫妻は、ペルペテュエルのものと思われる日記帳に目を通し始めるのだった。

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