チートコードより年の功

「……なんだと、俺たち転生統率祝福協会に歯向かう奴がいるだって?」

「新入りたちが布教しに行ったら返り討ちにあったらしいわ」

「どうしましょう……転生主様」


 玉座の間のような場所で、黒い服を着た黒髪の日本人っぽい少年が、騎士のような恰好をした長い桃色髪の女性と、深いスリットが入った白いローブを纏う水色髪の賢者のような女性から報告を受けていた。

 転生主と呼ばれた黒髪の少年は、ふーっと不機嫌そうな表情でため息をついた。


「で、その歯向かうようなバカはどんな奴なの?」

「なんでも、転生主様よりも年下の子供のようで、周囲からは「ゲンスイ」と呼ばれているのだとか」

「ガキのくせに「元帥」たぁ痛ぇヤツだな。さてはどっかから転生してきたか軍オタだな。そんな奴に負けるなんて「祝福人」の恥さらしだ。後で見せしめに「総括」させてやれ」

「ああ、身内にも厳しく容赦ない公明正大な転生主様、流石ですわ!」


 転生主の容赦ない言葉に反対するどころか、感動する騎士の女性。

 賢者の女性も、したり顔でうんうんと頷いている。


「あと、確かにその子供は頭抜けて強いとは聞いていますが、どうやらほかの人たちは大したことなく、ほぼ全員が素人同然のようです」

「ほー、それは好都合。あいつらはわざわざここに来ることだし、新たなメンバーを増やすとするか」

「はい! 誰に対しても分け隔てなく手を差し伸べる転生主様、流石ですわ!」


 こうして彼らは、敵の正体を軽んじたまま、3人で「夜の訓練」に突入していくのであった。



 ×××



「ここがあのうさん臭い人たちのアジトみたいね」

「あらかじめこっちから行くと伝えた甲斐があったみたい。随分と歓迎の準備が整っているようだ」


 一晩野営した黒抗兵団一行は、少し寄り道して南のやや大きな町まで向かった。

 行軍中に一度早めのお昼をはさみ、午後1時過ぎに町が見える場所まで進むと、町の入り口の前に大勢の人間が、一定間隔でずらりと並んでいた。

 その陣形はなかなかきれいで、しかも人数は大雑把に見た限りでも2000人はいるようだった。


「あ、あれが転生統率祝福協会……! あんなにたくさんいるのか!?」

「やべえよやべえよ……あんなに大勢、戦ったら勝ち目ねぇじゃん!」

「いくらうちの元帥が子供の割には強いといっても、相手はあの「転生主」だからなぁ…………」

「ど、どうしよう? 今のうちに元帥をみんなで倒して降参しようか?」

「しっ、めったなこと言うな! 首ちょんぱされるぞ!?」


 敵の陣容から威圧感を感じた新米ハンターたちは、弱気になってざわざわと騒ぎ始めたようだ。

 それでも、玄公斎は微塵も不安に感じておらず、敵の陣容を観察した。


「あれは陣形を組んでいるのかな。でも術式陣形でもない、単なる攻撃向きの配置だし、何がしたいんだろう?」


 どうも敵にはそれなりに兵法に明るい人間がいるようだが、玄公斎的には何のために陣形を組んでいるのかがいまいちわからなかった。

 実は、転生統率祝福協会たちは米津達に「自分たちは軍事にも強い」ことをアピールしているだけであって、特に作戦などはなかったのだが…………


 そんな中、お互いが正面から相対すると、敵陣の中から二人の女性を連れた黒髪の少年が出てきた。


「お前たちの中に「ゲンスイ」とやらはいるのか? 俺たちの仲間がいじめを受けたと言ってきたんだ。弱い者いじめは俺の趣味じゃないが……転生主として見過ごすことはできない」

「さすがは転生主様、かっこいいですわ!」


(えっと、何この……何?)


 何かお芝居を見せつけられているような気分になった玄公歳だったが、指名されたからにはとりあえず前に出ることにした。


「あのー、僕がまとめ役の元帥なんだけど」

「お前か……どれどれ」


 玄公斎が前に出ると、転生主はどこからかサイバーサングラスのようなものを取り出すと、少年姿の玄公斎の「レベル」を測り始めた。


「へぇ、レベルはたったの15か」

「レベル15って僕の?」

「そうだ。このスカウターはお前たちのレベルを測ることができる。後ろにいるハンターたち諸君のレベルは、まあだいたい30~40ってとこかな。君たち、なんでそんな子供の言うことに従っているんだい? そいつ、たぶん偉そうにしているだけで君たちより弱いよ」


 何やら「レベル」なる基準を持ち出して、玄公斎を弱いと断じた転生主。

 その言葉にハンターたちは困惑していたが……


「えー、でも昨日集まった時、遅刻したやつを一刀両断してたし……」

「列車の戦いでも普通に敵をまとめて倒してたし」

「元帥の指示を聞いてると、恐ろしいくらいうまくいくんだよね」

「あいつ、嘘ついてるのかな」


「……え?」


 どうも期待した反応が返ってこず、かえって転生主のほうが困惑してしまった。

 転生主は単純に「レベル」で判断しているせいで、彼らが昨日の戦いで玄公斎の活躍と恐ろしさを間近で見たことを知らず、いろいろ勘違いしているようだ。


「ま、まあいい! とにかく、俺たちはこのままお前たちを蹂躙してもいいんだが、せめてチャンスをやろう。3本勝負をして、勝ったほうがいうことを聞く、というのはどうだ?」

「わかった、それでいい。無用な血が流れるのは僕も嫌だからね」

「ふっ、綺麗ごとだな」


 そんなわけで、急遽お互いの陣営で3本勝負することとなった。


 まず、第1戦目はお互い平団員10人以内を出し合って戦うことになった。


「さあ、転生を約束された者たちよ! サタンを調伏させ、新たなる祝福人へといざなうのだ!」

『おーっ!!』


「元帥殿、こちらはどうする?」

「昨日の戦いで活躍した者を適当に見繕ってほしい。どうも相手は動きが緩慢で、武器に振り回されているようだけど、それなりに強化が入っているっぽい」

「わかりました」


 対する黒抗兵団は、智香が選抜したベテラン5名を投入した。

 そんな中、相手の転生主はというと……


(あの女、レベルは98……BHWは上から100(J).61.92か。ふっ……あらたな愛人としてちょうどいいな)


 敵戦力の解析をほっぽり出して、智香の解析に熱を上げる始末。

 装備しているスカウターは、レベルのほかにも女性のスリーサイズを表示する機能があるらしい。

 転生主は智香の豊満な体を眺めて、今夜どんなふうにかわいがってやろうかという想像に胸を膨らませていると――――


「よし、まずは僕たち黒抗兵団の勝ちみたいだね」

「!?」


 そこには一方的に叩きのめされた転生統率祝福協会の信者たちの姿があった。

 彼らも地位としてはそれなりに上位のメンバーなのだが、さすがにかつて竜の討伐に挑んだ腕利きたちだけあって、たった5人でもあっという間にかたずけてしまったようだ。


「ふっ、少しはやるようだな。しかし次はそうはいかない。二人とも、出番だ」

「はい、転生主様のためにこの剣を捧げます!」

「私たちを出すとは、流石は転生主様です!」


「おや、あの二人はなかなかの相手のようだ。あかぎ、本当に一人で大丈夫?」

「うん……まかせておじいちゃん! きっと勝ってくるし、負けても引き分けになるだけだから、安心していいよ!」


 続く第2戦目は、あかぎ1人対転生主の傍仕えの女性二人だった。


「いいのか? そっちは一人で。そこの巨乳スーツの女は戦わないのか?」

「…………さっきからじろじろ見ているかと思えば。私にはやることがある、お前なんかにかまっていられない」


 一応智香は、ほかの方向から不意打ちが来ないか警戒するために戦わないのだが、やはり自分のコンプレックスを玩味されるのは愉快ではない。


 それはともかく、あかぎと女騎士、女賢者の戦いが始まったが、さすがにこの二人の実力は本物で、玄公斎はなぜ彼女たちが転生主を崇拝しているのかいまいち理解できなかった。


(まあ、僕たちが知らない魅力があるんだろう、きっと。それこそ、僕がタマお姉ちゃん…………じゃなかった、環に声をかけられたのと同じように)


 激しい打ち合いが続いたが、修行を積んだ成果が出たのかあかぎは2対1でもきちんと勝利を収めた。

 対戦相手の二人は、重傷を負ってその場に倒れ伏したため、転生統率祝福協会の祝福人たちがあわてて手当てのために退場させた。


「くそっ……あの二人の仇は、俺が討つ!」

「いや、まだ死んでないっぽかったんだけど。あと2回勝ったから僕たちの勝ちじゃないの?」

「黙れ!(ドン!)サタンの手先め! 言っておくが、俺は強いぞ…………なにせ俺のレベルは「999」だからな!」

「さっきからその指標あてになってないから、ちっとも怖くないんだけど」


 結局、勝ち越しているにもかかわらず3戦目の大将同士の一騎打ちとなった。

 しかも転生主は、レベル999を自称する一方で、玄公斎のレベルは15。

 客観的に見れば、吹けば消し飛ぶレベル差だ。


「いくぜ! 必殺、旋風斬!」

「む!」


 レベルカンストを自称するだけあって、転生主の攻撃は確かに威力が非常に高いことがわかった。おそらく、玄公斎に掠るだけでも死んでしまうだろう。

 しかし、彼は精神を集中させ、彼の攻撃を見事にはじいて、斬撃を明後日の方向にそらした。

 行き場を失った旋風斬は、近くの丘に激突して、大きなクレーターを作った。


「なんだこれは! さてはチートだな! チート! ふざけるな!」

「チートってなんだよ……君の攻撃、威力だけ高くてよけるの簡単すぎる」


 確かに玄公斎は、子供の姿に弱体化し、レベルが大幅に下がっているが…………それでも長年戦って身に着けてきた技の数々は失われていなかった。

 それに比べ転生主の攻撃は、威力ばかり高くて、玄公斎にしてみれば児戯も同然だった。

 実は玄公斎、この異世界に来てから何度も強敵と対峙してきたが、ダメージを受けたのはアンチマギアと殴り合った時だけだった。

 神技にまで磨かれた剣技は、今まで誰も破れない鉄壁の防御になっているのだ。


「よし、じゃあそろそろ決着をつけようか。言っておくけど、次はちゃんと力抜かないと死んじゃうからね?」

「ふざけやがって! やろぶっ殺してやるっ!!」


 怒りで我を失った転生主が、特大威力の必殺技を叩き込もうとしたが……玄公斎は構えた刀で攻撃の威力を反転させて返した。

 鹿島流剣術奥義「破魔鏡はまかがみ」は、敵の攻撃を倍にして返すカウンター攻撃。

 転生主と呼ばれた黒髪の少年は、訳も分からないまま自分の攻撃が倍の威力となって爆散し果てたのだった。


 大勢の若者の道を惑わせた転生統率祝福協会の幹部は、実にあっけなく死んでしまった。


「転生主様がやられた!?」

「い、いったいどうすればいいんだ!」

「いやだ、僕は死にたくない!」


「静まれ! どうやら君たちは、強くなりたいのに実力が追い付いていないと見た! 僕たちが全員鍛えなおしてやるから、覚悟するように!」


 こうして、間近で強さをまざまざと見せつけられた転生統率祝福協会のメンバーたちは、逃げた一部の人を除いて素直に黒抗兵団に降伏した。

 兵員の質はともかくとして、第1中隊「菖蒲」は順調にその数を増やし続けるのだった。


【今回登場したエネミー】転生候補 (祝福人)

https://kakuyomu.jp/works/16817139557628047889/episodes/16817139557742190224

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