受け継がれた戦意

 負傷して治療中の美延に代わり、ミノアから戦いの話を聞いてた玄公斎をはじめとするハンターたちは、迫りくる脅威の大きさにから次の戦いは並々ならない規模になるであろうこと感じた。


「そうか……地表を埋め尽くすほどの天使の大群と、こちらが危うく全滅しそうになるほどの実力を持つ神のしもべが相手か」

「そうなんです! このままだと、この世界に住む皆さんが危ないんです! どうか、あたしたちに力を貸してください!」

「力を貸すことについては無論……というか、力を貸してほしいのはこちらの方なのじゃがな。ここは互いに協力し合い、少しでも被害を防がねばな」


 竜人の王女ミノアは改めて玄公斎たち黒抗兵団と協力体制を結ぶことを確約したうえで、彼女たちもまた「黒抗兵団第4中隊『竜牙』」と名乗ることとなった。

 一応、玄公斎たちと行動を共にする予定だが、ミノアは一軍を率いられるだけの才覚があると判断したので、いざとなれば別行動部隊を彼女の下に編成して行動させることもできるという寸法だ。


「さて、あれだけの規模の襲撃があったにもかかわらず、損害で言えば比較的軽微で済んだが…………まさかあのリヒテナウアーが消息不明とはな」

「そうなんだよ爺さん、あの場所に残っていたのはあの斧だけだったぜ」


 次に被害状況を確認した玄公歳だったが、被害自体はそこまでではなかったが、最後まで至近距離で戦っていたリヒテナウアーが跡形もなく消えてしまったという。

 なにしろ、盾にした下級天使たちが全員消滅するほどの威力の攻撃を防ぎもせずに直撃したのだから、生きている方が不思議ではあるが…………中があまり良くなかったアンチマギアも、いざいなくなってしまうと、なまじ実力を知っているだけにさみしい気持ちになってしまう。

 ただ、リヒテナウアーが使っていた巨大斧「ブレッケツァーン」だけはぽつんと戦場に残されており、その場にいた竜人たちが数人がかりで抱えて回収してきた。


「私が使ってやろうかとも思ったが、ダメだ、重すぎて持てねぇ」

「じゃろうな……おそらくわしも無理じゃろうし、あの斧は迂闊に使うと持ち手の命もない危険な武器じゃ。あやつが簡単にくたばるとは思えんし、そのうちひょっこり戻ってくるじゃろうから、どこかに保管しておくとしよう」

「じゃあ、あたしが運んでおくね」


 すると、あかぎがブレッケツァーンをひょいっと持ち上げた。


「お、おい! 持てるのかよあかぎ、重くないのか!?」

「あたしですら持ち上げられなかった斧を、たった一人で!?」

「うーん、確かに重いけど、持てないことはないかな…………」


 あまりにもあっさり持ち上げたものだから、周囲の人々は唖然としてしまった。

 おそらくこれも修行の成果なのだろう。


「コホン、持てるのであればあかぎに任せよう。とりあえず、奴が使っていた部屋に運んでおいてくれ」

「わかった!」

「よし、それ以外の者たちは、責任者を除いていったん休んでおいてくれ。ワシはこの後、地竜の鱗を回収してきた者たちと面談してくる。その間に冷泉准将と一大将は各部隊の責任者と、セントラル行政委員と連絡を取り、いつでも会議を行えるよう用意を整えておいてほしい」

「「かしこまりました」」


 時間的には昨日重要な打ち合わせをしたばかりだが、情勢があまりにも急激に変化するので、すぐに次の対策をとらなければならない。


「そうなると地下都市の探索に行ったチームは無事かのう」

「ペンタゴン建設中に、地中奥深くからいくつもの激しい振動を観測したと報告が上がっています。今のところ救援要請は届いていませんが、かなり大規模な振動と魔力の波動を複数計測しております。おそらく、かなり激しい戦いが起こっていると思われます」

「ううむ、彼らもこの危機においては重要な戦力じゃからのう。それに、アルがおらねばこれから回収する地竜の鱗を加工できるものがおらんくなる」

「元帥……まさか、激戦に赴いてかえって来て早々にまた重労働をさせる気ですか?」

「世界の危機じゃ。妖精じゃろうと竜じゃろうと、過労死せん程度に働いてもらう。当然ワシもじゃがな」

「……本国から腕のいい鍛冶を招集しますので、あまり無理をさせないでください」



 こうして玄公斎たちがあわただしく動き始める中、ブレッケツァーンをホテルに運んでいくあかぎ。

 その途中で、彼女の脳内にどこからか声が響いた。


『おい、あかぎ』

「え? なになに? リヒテナウアーさんの声がどこから?」


 部屋に入ったとたんに脳内に響くリヒテナウアーの声。

 あかぎはその場で静かに精神統一して意識を深く沈めると、精神世界の中でリヒテナウアーの姿を見つけた。


『おっと、直接話せるのかお前。修行とやらはずいぶんと効果があったみてぇだな。私も行けばよかった』

「ええっと、何の用? まさか、死んじゃったから幽霊として出てきた?」

『馬鹿野郎お前、私はとっくの昔に死んでるんだぞお前。とはいえ、お前の言っていることも中らずといえども遠からずだな。ちと無茶しすぎたせいで肉体うつわがなくなっちまった。もう一度そっちに現界することもできるっちゃできるが、さすがに時間がかかる。クソッタレ、私としたことが目先の餌に気を取られて、本番の祭りに参加できねぇなんて一生の恥だ!!』


 精神体だけで現れたリヒテナウアーは非常に憤慨していたが、敵から逃げることをせず防御を怠った彼女の自業自得ではある。


『そこでだ、あかぎ。お前、私の代わりにこのブレッケツァーンであのふざけた天使どもを殺して殺して殺し尽くせ! 私が見込んだお前ならできるはずだ!』

「えーっ!? あたし、斧なんて使ったことないんだけど! それに、この斧重すぎて使いにくいし!」

『そのための私だ。再度現界するまでの間、私の精神はブレッケツァーンに宿ることになるから、私がお前に戦いやすいようにサポートしてやる!』

「……もしヤダっていったら?」

『ヤダいっても無駄だ、使うまで付きまとってやる!』

「わかったわかった! やるよ、もう!」


 こうしてなぜか、あかぎはしばらくの間リヒテナウアーの代わりに巨大斧ブレッケツァーンをふるう羽目になった。

 あかぎがあらためて斧を握ると、不思議と先ほどまでの重さを感じなくなっていた。



※今回の話にあまり関係ないですが、エリア10の新リージョンを公開しました

https://kakuyomu.jp/works/16817139557550487603/episodes/16817330651998409822

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