フロンティアの嵐作戦 20
「なんだこれ、話が違うじゃん。出張先の拠点は南国リゾートだって社長から聞いてたのに」
「リゾートどころか、もはや世紀末なんですけどぉ……」
中学生くらいの男女――――瀬宮雫と夜久霧矢は、目の前で繰り広げられている黙示録的な光景を前に愕然としていた。
彼らはMDC本社から派遣されてきた選りすぐりの幹部人員であり、本来であれば傭兵団「神託の破壊者」の追加人員として派遣される予定であった。
ところがこの二人は、予定されていた場所とは別の場所に転移させられてしまったのだ。
果たしてこれは転送方法の不具合かなにかか……残念ながら、確認しようにも二人は異世界間を跨ぐ通信端末を持っていない。
しかし、霧矢がふとポケットの中に何か紙らしいものが入っているのに気が付くと、おもむろにそれを広げた。
「霧矢・雫へ
デストリエル様の御身心により、二人には別の任務をこなしてもらうわ。
そこにいる巨大な粗大ごみは、存在そのものがデストリエル様にとって許しがたきものなので、完膚なきまでに破壊すること。
よろしく頼むわね」
そんな簡潔なことが書かれていた。
「倒すって……あれをか?」
「え、ええぇ…………あんな怪獣、映画でしか見たことないのにぃっ!?」
「社長も人使い荒いぜ。風車に突っ込めって言われる方が、まだ現実的だろ」
やや離れた場所から見てもなお、視界に入りきらないほど巨大に成長したアースエンドと、四方八方から浴びせられるとんでもない威力の攻撃が飛び交う戦場で、二人は何をすればいいのか途方に暮れることになった。
そんな時、二人がいる場所に緑色をした物体がいくつか飛んできた。
「えぇっ!? あの距離なのにもう気が付かれたの!?」
「避けるぞ、ボサっとすんな!!」
「わ、わかってるよっ!!」
飛んできたのは、何やら巨大な毬藻に大きな口だけが生えたような奇妙な物体であり、彼らは勢いそのまま二人を食らわんと次々に地面に突っ込んできた。
避けること自体はたやすく、物体は次々に地面にめり込んだが…………それらから次々に手や足のようなものが生えだし、その場で立ち上がったのだ!
「キメェっっ!! しょっぱなの相手がこれとか、ヤバ過ぎんだろこの世界!」
「――――ふーっ、いいわ、やってやろうじゃない」
雫はすぐに「裏」の人格に切り替わると、全身を広げて不可視の糸のような魔力をバケモノたちに絡みつかせた。
これこそ、雫が得意としている
糸に絡めとった対象からエネルギーを吸収するえげつない技能である。
「これは……すさまじいエネルギーの塊だわ! 一体でも人間一万人以上のエネルギーを感じる!」
生命力を吸い始めてすぐに、バケモノたちが無尽蔵の生命力を宿していることに気が付いた。
おそらくこのバケモノたちは、アースエンドの「分裂体」なのだろう。
本体から切り離すことで、群がる人間たちへの数的不利を覆そうという目論見があると同時に、アンチマギアの術から解放されることで、日光による驚異的な再生能力を十全に使うことができるようだ。
「くっ、拡張天賦……『
エネルギーも吸いすぎると雫にとって負荷になってしまう。
彼女はとっさに吸ったエネルギーを『命綱』から逆流させることで、流れてくるエネルギーと一時的に対消滅させる。
これにより、わずかではあるがアースエンドの分裂体の動きが鈍る。
「なるほど、そういう原理かよ。一か八かだが、俺に任せろ」
霧矢も何もしないわけではなかった。
彼は何本も常備している投げナイフを複数手に取り、自らの「吐息」を吹き付けた。
「見よう見まね……しかもぶっつけ本番たぁ想定外だけど、効いてくれよ!!」
霧矢の持つ「施療」の天賦は、味方の傷をいやしたり、状態異常を治すというもので、通常であれば攻撃には向かない。
その上、この天賦は霧夜がある程度対象に近づかなければならないという欠点がある。
それを克服する回答の一つとして編み出した方法の一つが、皮肉にもいつか戦った「敵」から学んだ方法だった。
霧夜は自らの天賦を吐息に乗せてナイフに付与することで、短時間ではあるがナイフ自体が施療の効果を持つようになる。
これを撃ち込むことにより、ナイフが刺さって痛いのと引き換えにちょっとだけ遠くの相手に「施療」を施すことができるのだが――――それだけでは終わらない。
「拡張天賦『
拡張天賦『
これを付与したナイフをアースエンドの分裂体に撃ち込むことで、彼らは一時的にその膨大な「自動回復」を治療させられた。
「今だ、やれ!!」
「言われなくても!!」
ここで雫が満を持して「命綱」から一気に生命力を吸い取っていく。
回復を止めてもなお膨大に流れ込む生命力のせいで、雫の鼻から大量の鼻血が流れ出すも、分裂体はたちまち水を絞り出されたかのように萎れていき、ついには干物と化したのだった。
何とか危機を脱した二人。
時間にしてわずか1分未満の戦闘だったが、体感的には数時間以上に感じるほど、負担の大きい戦闘であった。
とはいえ、勝てたのもまた事実であり、二人はほんの少し勝ちへの道筋が見えてきた。
「……よしっ、何とかやれそうな気はしてきた」
「幸い味方は多そうだし、このままうまいこと立ち回ってさっさとあのデカブツを片づけちゃいましょ」
が、それをあざ笑うかのように、彼らのいた場所にまたしても大量の緑色の物体が「お替りだ」といわんばかりに降り注いできた。
「ちょっ、マジで!? いくらなんでも多すぎない!?」
「ああ、加護があるとはいえさすがにこの数相手は厳しいな……早いところ味方と合流するぞ」
このままではじり貧だと判断した霧矢と雫は、数の不利を補うために味方との合流を急いだ。
すると、新たに生えてきたアースエンドの分裂体めがけて、霧が濁流のように襲い掛かり、一部を消し飛ばした。
『おーい、そこの人たち大丈夫!? 助けに来たよ!』
「突然人が現れたって聞いて駆けつけてきたけど、あなたたちは味方……でいいのよね?」
「うおっ、スゲエ! ドラゴンじゃん!! 本物だ!!」
「こら霧矢、中二病はしまっておきなさい! えっと、いかにも私たちはあのでかい生物を倒すために派遣されたのよ」
駆けつけてきたのは、主に西側で戦っていたシャインフリートと、ミノア率いる竜人部隊たちだった。
彼らは突然戦場に現れた二人を助けるために駆けつけてきたのだ。
本物のドラゴンを見てテンションを挙げる霧矢を小突きつつ、雫が表の人格に戻って彼らに味方であることをアピールする。
天祖智典が無関係の人間を操っていた前科があるので、ミノアたちも若干慎重になっていたが、いまやその智典は彼らが倒したことでその心配はほとんどなくなっており、加えて先ほど二人がアースエンドの分裂体と戦っているのも確認した。
「一緒に戦ってくれるのはありがたいけど、無理はしないでね。あたしたちは頑丈だから、攻撃は私たちが受け止めるわ」
「いや、だからと言って後ろで守られてばかりなのは俺も不本意だ。お互いに守りあえばそれでいいだろ」
「あらやだ霧矢君ったら、たまにはかっこいいこと言うのね」
「うるせえ」
そんなやり取りをしつつ、竜人やシャインフリートたちと合流に成功した霧夜と雫は、あっという間にアースエンドの分裂体を協力して薙ぎ払うと、お返しをすべく本体の方へと向かって行った。
【増援】
下記のメンバーが現地入り
・瀬宮 雫
https://kakuyomu.jp/works/16817330652275830255/episodes/16817330660198663522
(勝手に)以下の能力を追加
・拡張天賦『
普段は生命力を吸収する「命綱」の一部を逆流させ、流入してくる分と衝突させることで、敵の体内に直接ショックを与える。
用法を間違えると敵を回復させてしまう恐れがあるため、扱いは難しいが、成功すれば一時的にスタンさせることが可能。
・夜久 霧矢
https://kakuyomu.jp/works/16817330652275830255/episodes/16817330660199037191
以下の能力を追加
・施療付きナイフ(正式名称未定)
霧夜の持つ「施療」をある程度遠くに飛ばすために、ナイフや拳銃の弾丸に「施療」の天賦を付与して打ち込む。
一見便利そうに見えるが、打ち込まれる対象は回復はするものの刺されたり撃たれたりするのと同じくらいの痛みが伴うのがネック。
あと、彼自身ノーコンなので、対象が小さかったり動いていたりすると命中率が下がってしまう。
この技は、かつて対戦した千間来朝の技を記憶を頼りに再現したものである。
・拡張天賦『
「施療」の範囲を拡大解釈し、相手の強化弱体を含めてすべて「正常ではない状態」とみなすことで、それらの強化弱体をすべてゼロの状態に戻す。
使うかどうかは別として、「狂戦士化」や「人化」などの効果も打ち消すことが可能だが、能力を封印する類の技能ではないため、あくまで一時しのぎ。最も効果を発揮するのは、玄公斎のような累積強化をするタイプである。
※東美桜様
勝手ではありますが、技を追加しました。
今後使うかどうかはお任せいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます