フロンティアの嵐作戦 21
玄公斎たちが激戦を繰り広げ、それ以外のチームも各々の担当する区域で必死な戦いを繰り広げているころ、スィーリエの最終目標となっているセントラルの町では、住人たちが各々テレビやラジオの近くに張り付いて、刻一刻と変化していく戦いの様子にくぎ付けになっていた。
「あんな化け物がこの世界に現れるなんて……あの人たちは大丈夫なんだろうか?」
「冒険者たちが何人も古戦場の方に召集されていったが、噂ではけが人が続出しているらしい」
「それじゃあ、あの人たちが倒れたら次は私たちが!?」
テレビの画面に映っているのは、限界まで画角を退いても全身が映らないほどの巨大な黒い怪獣だった。
かの生物が吐き出す青白いブレスは、人間たちが張る結界を何度も消し飛ばし、少なくないダメージを与えている。それだけでなく、身体の一部や皮膚の表面を切り離し、あちらこちらにばら撒いては破片に周囲の人間たちを襲わせる。
正直言って、あまり勝ち目があるようには見えなかった。
「女神様……どうか彼らを守ってあげてください」
「無事でいてくれよ、頼むぞ」
「せめて僕も戦うことができたら……」
不安に駆られた住民たちだが、かといってやけになって暴れてしまうと逮捕されてしまうことがわかっている。彼らにできることは、ただひたすら祈ることだけだった。
×××
「しぶとい……しぶとすぎる! 竜といい怪獣といい、なんでこんな面倒な敵ばかりなんだよこの世界っ!!」
ビバ・アンチマギア・ブラック・タイダリア号のコクピットでそうぼやきながらも、シンイチロウは高速で旋回する機体を操りながら、無数のビームをアースエンドにぶち込んでいく。
味方が大勢増えたせいで誤射しないようにするのが大変だったが、それでも彼は卓越した技能により、味方が開けた傷跡に的確に追撃するなどして、より効率的にダメージを与えていた。
「ジョーカー、敵の様子はどう?」
「……敵の体力はやっと3分の2を切ったよ。味方が大勢来てくれたおかげで一気にダメージレートが上がっているよ。それに、アースエンドもアンチマギアさんの能力から逃れようとしてるのか、あえて自分の身体を切り離してるから、そっちの方でも耐久力が減少してる」
ジェットコースター以上に無茶な軌道を行う飛行戦艦の中にあっても、ジョーカーは必死にモニターに食いついて、アースエンドの情報の解析を続けている。
撃破まで400年かかるという計算だった状況も、今では「あと1年」まで短縮している。
正直何の慰めにもなっていないような気がするが、幾分か撃破の可能性は見えて気がした…………が
「っっ!!」
「ど、どうしたの!?」
「大丈夫大丈夫……ちょっと頭が痛くなっただけ」
急に苦渋の表情を見せるシンイチロウ。
ジョーカーは心配そうに駆け寄るが、彼は手で大丈夫だと示し、モニターに戻るように言い聞かせた。
シンイチロウはただでさえ多数ある武装をすべて操らないといけない上に、アースエンドの解析も並行して行わなければならないのだから、脳への負担は限界をとうに超えている。
(1年なんて戦ってられないのは当たり前として……これじゃあ1時間も持たない。何とかしてもっとダメージレートを上げないと)
人間が全力を出せる時間などたかが知れている。
1年どころか1日だって長すぎるくらいだ。
千階堂のおかげで増援は続々と到着しているが、地上から攻撃している限り、どうしても攻撃に参加できる人数に限度が生じてくる。
これ以上はたとえ人数が増えても攻撃の効率が上がりにくくなってしまっているのである。
(考えろ……考えるんだ! 頭、腕、胴体、そして体の内側……あっちこっちから攻撃しているけど、もし「あの子」がいたらどんなひらめきを…………)
アースエンドを三次元的に考えたところで、ある一つの案が浮かんだ。
(そういえばこの辺って、古代の都市なんだっけ? ならば、もしかしたら)
シンイチロウはすぐに通信画面を開き、一部のチームへ連絡を取り始めた。
×××
「綾乃、シンイチロウさんは何か言ってきた?」
「……地下に潜って足元から攻撃できないか、ですって」
「地下……? 土遁の術が必要かしら」
「いいえ、場合によってはなくてもいけるかもしれないわ」
退魔士たちを指揮している綾乃中将とその姉紫苑中将は、シンイチロウから「地下から足元を攻撃してほしい」と通信で依頼された。
地下から攻撃といっても、1から地面を掘って真下に出るのは現実的ではない。シンイチロウが考えたのは、この戦場が古代都市であることを考慮したうえでの一種の賭けだった。
「贖都エテメナンキはかつてこの地方でも最大の人口を誇った大都市――――ということは、地下通路や下水道の遺構が残っているかもしれない」
「なるほど、そういうことね。確かに、それなら効率は上がるでしょうけど、突入するメンバーはほかのチーム以上に命がけよ」
そう、足元から攻撃するというのは、かつての大都市の遺構を利用した地下からの攻撃のことなのだ。
完全に相手の死角から攻撃ができる可能性があるものの、そのような都合のいい通路があるかどうかは不明なうえに、下手をすると攻撃するメンバーは生き埋めになってしまう可能性がある。
「となると、ここは元帥が召喚した英霊の方々にやってもらうしかないかしら」
「…………ここは、私が行く」
「姉さんが!?」
「それと、あの新人の子たちや、さっき駆けつけてきたばかりの治安維持部隊を使うわ」
「姉さんらしくない、危険極まりないじゃない」
「効率的にはこれが一番最善よ。元帥が召喚したご先祖様たちは飛べるから、わざわざ地下に潜らなくてもいいもの。もちろん危険は承知しているけど、あの子たちを大切に死蔵していられるほど、戦況に余裕はないのだから」
こうして、紫苑中将は綾乃の反対を押し切って地下から攻撃するメンバーを選出した。
「あたしたちが地下から攻撃! 思い切ったことするわね、母さん」
「私だって、こんな博打みたいなことはしたくないのだけどね。摩莉華ちゃん、勘でいいからいける道がないか探してちょうだい」
「承知しました~」
「それと、あなた方も頼りにしているわ。智香さん、エシュさん」
「ああ、危険な任務だからこそ、やりがいがあるというものだ」
「順番待ちをするくらいなら、取り付ける場所を探すのも悪くない。足元から内部を食い破るぞ」
果たして、紫苑率いる決死隊は摩莉華の直感により地下への入り口を見つけると、崩壊寸前になっている太古の地下道を躊躇なく進んでいった。
こういう場所ではエシュの経験と独自の感覚がよく働き、短い経路かつそう簡単に崩落しない通路をひたすら進んでいく。
ところが、途中で何やら別の人間の気配を感じた。
「とまれ、こっちに人の気配がする。聞こえるなら応答しろ」
「え、こんなところに人? あなたたちも味方、だよね?」
ばったりと出会ったのは、別の通路から地下を通って攻撃をしようとしているミノア率いる竜人部隊だった。
地上では魔術やブレスなどで特大威力の攻撃が繰り広げられているせいで、接近すると味方の攻撃の巻き添えを食らいかねないと判断したミノアが、部下たちとともに地下から足元を潜り抜けて、敵の体内に直接浸透強襲を行おうとしていたのである。
そして、彼女たちと一緒に地下通路を駆けつけてきた霧夜と雫も、まさかこんなところで味方と遭遇するとは思っておらず驚いていた。
「……あ? お前、確か……?」
「……あら、久しぶりじゃない。ふふっ、今回は仲間だから安心していいわよ」
「ちっ、言いたいことはしこたまあるが、そんなことしてる場合じゃねぇよな」
特に霧矢と来朝は、実はこれが初対面というわけではない上に、浅からぬ因縁があったが、この緊急事態に揉めるほど彼らは自分勝手ではない。
言いたいことはあるが、すべて後回しにし、目の前の脅威に立ち向かうことに決めたのだった。
「みんな、この先すぐに敵の真下に出るわ。危なくなったらすぐに引くのよ、生きて帰ってこそ作戦が成功するのだから」
ミノアたちと合流した紫苑たちは、地下道を経由してついに敵の真下へと到達した。
そこにはすでに、アースエンドの身体が侵入者を待ち構えるようにいくつもの器官を変形させている。
「随分と歓迎されているようだな。ならば、主賓としてそれにこたえねばなるまい」
そういって、メンバーたちの先頭に立つ智香は、目の前で儀礼のように神竜の剣を掲げた。
悪を討ち果たさんとする智香の強い意志に応えるように、剣もまた刀身を美しく輝かせた。
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