フロンティアの嵐作戦 22

「はっ……はぁっ! なんという敵だ、これだけ叩いたもまだ立ち上がるか」


 玄公斎が一瞬のうちに刀を高速で振りぬき、アースエンドの一部を細切れに切断しつつ、傷口を凍らせて追撃をかける。

 今の一撃であれば、竜王配下の戦闘竜すら一撃で倒しうる威力だったが、アースエンドの莫大すぎる体力の前には爪先のほんの一部が欠けただけでしかない。


『智白君、わかっているだろうけどこれ以上の出力上昇は難しい。僕の中にある零基の消耗が激しい……使いすぎれば、オーバードライブからの復帰も難しくなる』

「ああ、わかっておるとも。元々ここは日本とは別の世界……異世界では、毘古那所縁目録の真の力を発揮することはできぬじゃろうな。かといって、手を抜くわけにはいかぬ」


 玄公斎の背後では、無名ながらもいにしえの日本のために戦ってきた無数の英霊たちが、生前の武勇をもってアースエンドに相対している。

 だが、本来彼らが真の力を発揮するのは、玄公斎がかつていた世界の、それも日本国内の範囲だ。

 「日本」という国の歴史そのものをぶつけるのだから、その出力が土地に左右されるのはある意味当然と言える。


(歯がゆいな…………これ以上の力を出せぬとは)


 玄公歳からすれば、まだまだ力が足りない。

 しかし、彼の内に宿る少名毘古那神すくなびこなのかみの言う通り、無理に出力を上げると、オーバードライブの副作用がより深刻になってしまう。

 今度は戻るのに月単位で時間がかかるのか、それとも赤ちゃんにまで退行してしまうのか……? 少なくともろくなことにはならないだろう。


 そんな言葉のやり取りを聞いていた時、無線から思わぬ声が聞こえた。


『……爺さん、要するにあんたの故郷とこの世界が遠いのが、爺さんたちのネックになっているわけだろう?』

「千階堂か」


 無線からは、地上で戦況を見つめている千階堂の声が聞こえた。

 彼自身はさほど戦闘には向かないので、後方で手伝いをしているだけだったが、彼自身もっと役に立てないかといろいろ逡巡しているところだった。


『本当に、思い付きだ。うまくいくかはわからんが、俺の力で爺さんたちの世界とこの世界を、直接ポータルでつなげてみようと思う』

「なんじゃと……しかしそれは、いろいろと危険が大きそうじゃな」


 思い切ったことをいう千階堂に、玄公斎もさすがに不安を覚えた。

 いくら遠いところでもワープホールをつなぐことができる千階堂といえど、異世界間をつなぐなどやったことがないし、つないだ時の消耗も、デメリットも何もかもが不明だった。


『心配するな! 男は度胸、何でも試してみるもんだ!』

「……まずくなったらすぐに中止するのじゃぞ」


 こうして千階堂は、玄公斎の故郷、日本とのポータルをつなぐべく、術式の用意に取り掛かったのだった。



 ×××



 一方そのころ、アースエンドの体内では――――


「見つけた、あそこよ!」

「アンチマギアさん、無事ですか!? シャインフリートが助けに来たよ!!」

「よう、が来たぜ」


「へ、へへ……やっと来たかショタ竜が! アンチマギア様は、まだまだ余裕だぜ!」

「お前、何そんなかっこつけてんだ! 俺様がいなかったら、あっという間にひき肉になってたぜ!」

「なんだよ、もう応援が来たのか。俺たちで全部始末してやろうと思ったのによ!」


 身体の中心部で蜘蛛の巣のように粘るアンチマギアたちのところに、霧夜や唯祈、シャインフリートたちが合流を果たしたのだった。

 もはや一つの巨大な構造物のようになっている体内を、彼らは持てる能力を全て叩きつけて強引に道を切り開いてきた。

 唯祈が両手に持つ霊刀で非常に硬いアースエンドの触手をばっさばっさと薙ぎ払い、その傷口に合わせて静や摩莉華、雫などが広範囲にわたって敵の内部を徹底的に絨毯爆撃する。

 そして、消耗した術力などはその都度霧夜が回復しているため、彼らは常に万全の状態であった。

 また、単体では飛ぶのに一手間かかる智香は、シャインフリートの背にまたがり、特に組織が集中している箇所を神竜の剣で滅多切りにしていた。

 おかげで彼らが通った後は、まるで台風が通り過ぎたかのようにズタボロになっており、アースエンドがかなりの痛手を被ったことが見て取れる。


 だが、アンチマギアや仮面の少女、そして第1天兵団たちもまだまだ負けてはいない。

 彼らは孤立無援ながらも、内部の異分子を排除しようとするアースエンドの触腕などを徹底的に破壊していった。

 そのせいか、彼らは少なからず傷もおっており、特にアンチマギアは重点的に敵に狙われるせいで包帯がボロボロになっており、その姿は非常にきわどいものとなっていた。


「……夜久君、あの痴女ミイラに回復をぶち込んで差し上げなさい」

「すっげぇ目のやり場に困るんだけど……しゃあない」

「おっ、なんだなんだ少年! お姉さんを気持ちよくしてくれるの? 嬉しいわぁ♥」

「うるせぇ! 黙って施療なおさせろ」


 思春期にはやや目の毒なアンチマギアに霧矢も若干苦戦したものの、彼は見事にボロボロだったアンチマギアを全回復させた。


「よっしゃぁ! これで好きなだけタイマンできるなっ!! おらおらおらおら! いくぜいくぜいくぜ!」

「……やっぱり異世界の女はこえぇな」


 治ったとたんに、まるでダボハゼのように激しくタイマンして回るアンチマギアを見て、霧矢はほとほとあきれ果てたのだった。



※東美桜様

 霧矢君の名前が今まで間違ってましたので、修正しました。

 ゴメンナサイ

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