フロンティアの嵐作戦 23

 現在、アースエンドを倒すべく様々な攻撃が外側からも内側からもなされているが、一番のメイン火力はなんといってもあかぎだった。


「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」


 あかぎが雄たけびを上げると、彼女の中にある「火竜の火種」が供給するほぼ無尽蔵のエネルギが赤い靄となって拡散し、彼女の下で戦っているミノアたち竜人部隊の戦闘能力を上げた。


「体が熱いぞ……いい心地だ、ハハ! あたしはまだまだ暴れられる!」


 いつもは堅実な戦いをするミノアも、目を狂戦士のようにぎらつかせ、自ら傷つくことを恐れずにアースエンドの身体を粉砕していく。

 これはまさしく、リヒテナウアーの特技「ヴァルハラの叫び」そのものだった。


 そして、あかぎ自身もリヒテナウアーから預かっている巨大斧に超高温の炎を纏わせると、一気果敢にアースエンドに向かって突撃し、古火竜レダの背中から十数メートルにもわたる大斬撃をその胴体に放った。


「どっせぇぇぇぇぇいっ!!」

『はあぁ、滾る、滾るねぇぇっ!! この煮えたぎった情熱ハート、受け取りなっ!!』


 そして斬撃に合わせ、顔面に×の傷を持つ火竜の口から、隕石をも貫通する超高熱の爆縮ブレスが放たれ、アースエンドの脇腹に大穴を穿った。

 これだけでも撃破予定が数カ月単位で進むほどの威力だったが…………


『おいあかぎ、それに足元の火蜥蜴! なんだその腑抜けた一撃は、ふざけてんのか!』

「えぇ、何言ってんのこの狂戦士……」

『あらぁ、誰がヒ〇カゲですって!? せめてリザー〇ンと言ってくださらない?』

「それもそれで意味わからないんだけど」


 火炎爆撃しまくる二人に対し、リヒテナウアーは何やら物足りない様子だった。


『いいや、お前らは手加減してんだろ。……味方巻き込まないようにするためにな!』

「そんなの当り前じゃない!? 味方に当てないために、あたしは必死に制御してるのにっっ!!」

『私としては別に人間なんてどうでもいいんだけど、味方に当てて戦力が減るのって損でしょ』


 リヒテナウアーは、どうもあかぎとレダがフレンドリーファイアをしないために若干手を緩めているのが気に入らないようだ。

 そんなことで怒られても、味方を巻き込んでしまうのはなんとしても避けたい手前、手抜きと言われるのは心外だった。

 だが、リヒテナウアーは一歩も退かない。


『のろまな味方なんざ、私が現役だったころは敵ごと蹂躙してやったものだがな。まあ、百歩譲って仲良しごっこ貫くにしてもだ、手前テメエはまだ戦場全体を把握しきれてねぇな?』

「戦場全体の把握?」

『あそこで戦ってるジジイを見ろよ。あいつは前線であんなバシバシ戦っているのに、まるでその場にいるかのように別の方向の戦線を把握してやがる。通信機を使っているってのもあるが、それ以上に戦場全体がどうなってんのかある程度見えてるわけだ。あのジジイに修行してもらったってんなら、手前だってやりゃできるだろ』

「そんな無茶な……」


 戦場の把握――正直なところ、そんなことをして何になるのかとあかぎは思った。

 とはいえ、言われてみれば玄公斎は自分でも武器を振るいながら、今見方がどこで何をしているのかを常に知っており、その見方たちがどういう問題を抱えており、解決するにはどうしたらいいかを逐一返答している。

 これは、玄公斎が長年戦場に身を置いたが故の一種の超感覚のようなものであり、成長途上のあかぎが軽々しく身に着けられるものではなかった。


(けど、もし味方の人たちの動き全体があらかじめわかってれば……)


 とはいえ、リヒテナウアーの言わんとしていることも分からんでもない。

 もし味方を巻き込まない位置があらかじめわかっていれば、あかぎとレダはもっと遠慮なく莫大な火力を振るうことができるだろう。


 そんなとき、あかぎの通信機に連絡が入った。


『あかぎ、私たちのことは気にするな! 胸部分を一気に焼き払っちまえ!』

「アンチマギアちゃん!? で、でもっ、それじゃあ……」

『心配スンナ! あたしも含めて、かすったくらいじゃ全快できる奴らばかりだ! ちょっとくらい当てたところで構いはしねぇよ!』

『え、ちょっ、あんた何言ってんの!? あの爆炎がこっち来るっていうの!?』

『大丈夫だ、俺たちなら避けられるし、何なら炎を別の方向にそらしてやんよ!』

『味方に殴られるなんざ天兵団じゃ日常茶飯事だぜ! 気にせず撃って来いよ』


 アンチマギアの通信機から、周辺にいるメンバーの声が聞こえてくる。

 彼らは、あかぎが自分たちが体内にいるせいで力が発揮できないことを知ったようで、掠るくらいなら許容すると言ってきたのだ。

 当然、雫や来朝をはじめとした冷静なメンバーは、まるで太陽フレアのような恐ろしい熱量の攻撃が自分たちの脇をかすめるだけでも恐ろしいと感じているようだが…………


『よーーーーしっ、何なら俺様が攻撃の方向を誘導してやるぜ!』

「え、本当にいいの? あたし、やっちゃうよ?」


 なんと、仮面の少女がより見方を巻き込まない方角に誘導すると申し出てきた。

 しかしそれは、逆に仮面の少女は巻き込まれる危険性が高くなることを意味していた。いや、むしろほぼ直撃コースに出てしまう。

 だが、仮面の少女には勝算があった。

 かつて極地で戦った高性能戦闘アンドロイドとの戦いで、攻撃を予見してベクトルをそらす方法を身に着けているため、来る方角さえわかっていれば、むしろ彼女自身が拡散装置となってよりアースエンドにダメージを与えることが可能だ。


「それじゃあ…………死なないでね」


 あかぎがその場で精神を統一する。

 心の中で勢いよく燃える原初の火種が、不気味な唸り声をあげて膨張し始めた。


『オオオオ…………リュウヲ、コロセ……! ミナゴロシ――――ダ!!』


 世界規模の竜への恨みが臨界に達し、あかぎの手に持つ斧ブレッケツァーンが今まで以上に激しくきらめく。


(く……この重圧、まさしくあの世界の…………改めて、私たちはとんでもないことをしてしまったわけだ)


 かつて滅ぼした世界の呪詛、その一部を背中で感じたレダは冷や汗が止まらない。

 だが、彼女は恐怖を振り払って、豪と咆哮を叫んだ。


「――――――っっ!!」


 瞬間、世界にさらに激しい爆音と熱風が巻き起こった。

 ほとんど小さな太陽となったあかぎの斧が、アースエンドの胸部に突き刺さった時、その巨体を上下に二分しかねないほどの爆発が巻き起こった。


「うっはぁっ、派手にやるじゃねぇか!! 仮面壊れるぅぅ!!」


 爆心地からはそれていたとはいえ、巻き込まれるような位置にいた仮面の少女は、莫大な熱を掌底のエネルギーでなんとか抑えている。

 全身が消し炭になりかねないほど熱く、手が消し飛びそうになりながらも、なんとか一撃を耐えると――――彼女の両手には真っ白な熱が纏っていた。


「この熱い情熱ハート、受け取ったぁっ!! これが、俺様の追撃だっ!!」


 爆発でめちゃめちゃになったアースエンドの体内に、仮面の少女がダメ押しとばかりに爆裂パンチを撃ち込んだ。

 爆音が二度三度鳴り響き、アースエンドの脇腹が内側から破裂する。


 そしてアンチマギアたちがいる方でも――――


「遠慮はいらないって言ったけど、本当に消し炭にしようとする奴があるかよっ!! 死ぬかと思った!!」

「あの子、元帥が育て上げたのよね。もはや戦略兵器そのものね……この結界がなければ、私たちも危なかったわ」


 引率の退魔士、紫苑が強力な結界を張り、その結界に雫のエネルギー吸収を合わせたことで、即席の術式吸収結界を作成した。

 おかげで周囲にいた子供たちや天兵団は無傷だった。


「さあ、私たちも負けてられないわ! 結界、パージ!!」

「了解っ!!」


 紫苑の合図で、雫が結界に纏わせていた生命力の糸を解き放つと、エネルギーを吸収した結界が、一気に散弾のように拡散して、焼け野原となったアースエンドの体内をさらに広範囲に爆撃した。


「さあて、じゃああたしも仕上げに向かうかなっ!」

「いいや、仕上げは俺たち天兵団の仕事だ!! ガキ相手に出遅れたら承知しねぇぞ手前ぇら!!」


 短時間でかなりの範囲を焼き払われたアースエンドに、ダメ押しとばかりに唯祈や天兵団たちが切り込んでいく。

 内側からも、外側からも猛烈な勢いで壊されていくアースエンドは、まるで苦しむかのようにのたうち回り始めた。


 永久に終わらないと思われた戦いに、ようやく終わりが見えようとしていた。

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