フロンティアの嵐作戦 24

 開戦から一体どれだけ立っただろうか?

 朝早くから始まり、すでに西に太陽が落ちようとしているほど、長く続く戦いは、戦士たちを確実に消耗させている。

 飲まず食わずでの戦闘で体力が落ち始めているのはもとより、地上で味方の超人たちを援護する兵士たちは弾薬の残量にも苦しまなければならなかった。


「こちら火炎重砲部隊! 弾薬が不足している、補給を要請する」

「バカ言うな、うちのヘリの機関砲も弾切れだ、補給の順番を守れ!」

「補給部隊は何をやっているんだ! 術式触媒が限界だ」


 体力と術力さえあれば、一応ずっと戦っていられる玄公斎やあかぎ達と違い、退魔士ではない一般の兵士たちは弾薬が切れればただの案山子にしかならない。

 ミノアたち竜人部隊のような、槍や剣で戦うことができる黒抗兵団の冒険者たちも、疲労がたまり始めているため、これ以上の無茶はさせられない。


「…………奇襲作戦故、弾薬の用意を少なめに見積もったのが拙かった。こんなことになるのであれば、もっと本国からたっぷり弾薬を用意したものを」


 各地から物資不足の報告で文句を言われ続けるにのまえ大将は、予測不能とはいえ、物資の予備を用意していなかったことを深く後悔した。

 目の前の巨大な怪物は、あかぎ達の捨て身の奮闘により、身体のあちらこちらがズタボロになってきている。

 そんないまこそ、大砲や術式兵器をオーバーヒートさせてでも集中砲火を浴びせるまたとない好機…………なのだが、肝心の弾がなければ話にならない。

 すでにいくつかの兵器は、弾薬を撃ち尽くして攻撃ができなくなっており、一刻も早い補給が求められるのだが、これらの兵器の弾薬はこの世界で製造することができず、本国から運び込むほかない。

 空から物資が降ってこないものか――――そんな風に現実逃避をしたくなった一のところに、あり得ない知らせが届いた。


『物資がご入用かね? 超特急で、お届けに上がったぜ!』

「うそ、この声まさか……」


 通信機に、何やら陽気な老人の声が聞こえると、上空に一直線に光の切れ目のようなものが走り、そこから大型輸送機が大量に降下してきた。

 そして、その光景は前線で戦っている玄公斎にもはっきりと見えた。


「なんと、その声は長谷川ではないか! さては、千階堂がようやく本国との間の空間をつなげたか!」

『よう師匠! この世界でドンパチやるなら、もっともっと弾が必要だろ? 賞味期限が近いから、在庫一掃も兼ねて残らずぶち込んでくれや』


 輸送機の一つに搭乗している長谷川という男は、玄公斎が育てた直弟子の一人だが、年齢は80と歳も玄公斎に匹敵する元老の一人である。

 ほかの弟子たちの大多数が引退する中、長谷川は後進の育成のためにまだ軍の中に残り、現在は主に補給部隊の改革に当たっている。


 ナイスタイミングで現れた輸送機たちは、たちどころに補給物資を落下傘でばら撒くと、あっという間に不足していた補給物資がいきわたり、弾薬切れで意気消沈していた兵器たちはたちまち息を吹き返した。


 だが、それと並行して、玄公斎に別の声が聞こえてきた。


『米津、私の声が聞こえるかしら?』

「む、リア様か。何かあったのか?」

『ええ……あなたたちの奮闘で、セントラルをはじめ、この世界に住む人たちがこの世界を守りたいと祈っているの。そのせいか、久々に私の失われた力が戻ってきた気がするわ』

「と、言うことは」

『あなたの「神竜の加護」を通じて、人々の「想い」を託すわ。苦しいでしょうけど、もう一押しよ。私の世界を破壊する醜い怪物を、完膚なきまでに破壊するのよ』

「……承った!」


 本国と近くなったことで「毘古那所縁目録」でつながっている英霊たちも、今まで以上の力を取り戻した上に、エヴレナから授けられた神竜の加護により、玄公斎たちはこの世界に住む人々の祈りを一身に引き受けた。


「なんだ……急に力がどんどんみなぎってくる! まるで、見えない力に後押しされているよう」

「なるほど、これはこの世界に住む人間たちの「願望」か。いや、「希望」と言った方がいいか。まさか俺にも効果があるとはな」


 空腹とのどの渇きにさいなまれながらも、最後の力を振り絞るミノアたちとともに、無心で槍を振るうエシュにも、心地よい気力がわいてくる。

 彼らも体感で、目の前の怪物の終わりが近いことを感じていた。


「すごい…………アースエンドが、どんどん弱ってきてる。残り撃破予定時間……5分!!」

「回復を封じられたことが大きかったね。体内からの攻撃が、かなりの致命傷になったように、やはり竜は内部が弱点だったのか…………ふぅ、もう一頑張りだ」


 空中でビバ(略)号を操縦し、ビームを浴びせまくるシンイチロウも、ひどい頭痛を振り払い、最後の攻勢に移る。

 今までクールダウンを調整しながら放ってきた武装を、ここぞとばかりにすべてアンロックし、しばらくの間攻撃できなくなることを承知で一斉にぶっ放した。

 艦首のビーム砲が、多砲門の連装プラズマ砲が、腹部の中性子投射砲が、古バーストでアースエンドを襲う。


 そして――――


『みろよ、あのバケモノめ、もうやめてくれって顔してるぜ! 情けねぇなぁ! 竜だろうが人間だろうが、あんな情けない顔をしたやつを殺す瞬間が最高の娯楽なんだ、わかるだろ?』

『わからないでもないけど……悪趣味だわ』

「天使と悪魔、そして竜…………混ざりに混ざったバケモノ、この私が成敗してあげる!!」


 あかぎの渾身の一撃が、アースエンドの胸部を大幅に抉り取った。

 鳴き声とも、爆発音ともつかない、奇妙な咆哮を上げて、アースエンドの巨体が崩れ落ちる。

 それでも人間たちは容赦をしない。

 補給物資を受け取った兵器たちが一斉に火を噴き、廃墟都市すべてを整地せんする勢いで弾薬の雨あられをたたきつけた。

 兵器たちが最後の一発まで弾薬を撃ち終わると、残った人間たちが満を持して残った破片を木っ端みじんにしていった。


 すべてが片付いたころには、雲一つない大空に満月が上っていた。



※ようやく撃破完了です

 リアル時間で3カ月以上かかるとか、しぶとすぎ

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