フロンティアの嵐作戦 19

「畜生っっ!! 俺としたことが、こんな時に限って!!」


 外で集中攻撃による轟音が鳴り響く中、後方に設置された野戦病院に無理やり収容させられた鐵之助は、人目もはばからず子供のように泣きじゃくっていた。

 彼は先ほどまでバケモノ相手に零距離で戦った挙句、自らの左足を犠牲にしてしまったせいで、回復のために病院送りにされてしまったのだ。


 ほかの隊員たちも多かれ少なかれ負傷しており、四肢の一部が欠損している天兵団が梶原のほかにも何人か収容されており、皆一様に沈痛な面持ちで打ちひしがれていた。


「可哀そうに……さすがにあのごろつきどもも足を失うのは辛いか」

「まあ、これでしばらくはおとなしくしてくれればいいのだが」

「大丈夫ですよ中佐、本国に帰れば再生手術を受けられますから」


 乱暴者で嫌われがちな天兵団たちだが、看護にあたった衛生兵たちもさすがに体の一部を負傷で失った彼らに同情的だった。

 しかし当の本人は――――


「バカ言え! 左足なんざそのうち生えてくるから大したこたぁねぇっ! 連中があのバケモノ相手に楽しそうに戦ってるのに、俺だけおとなしくしてなきゃなんねぇのが悔しくて悔しくて死にそうなんだ!!」

「「えぇ……」」


 どうも鐵之助は自分が負傷して落ち込んでいるのではなく、味方が戦っているのに自分だけ戦えないのが悔しくて仕方がないらしい。

 そんな理由で人目もはばからず号泣していると知った軍医たちは完全にドン引きしていた。


 そんな時、彼にとっての救世主が突如現れた。


「新鮮な怪我人がいると聞いてやってまいりました」

「あんたは……ロボ子博士じゃねぇか!」

「ロボ子ではありません、シャザラックです」


 なんと、本拠地で待機していたはずのアンドロイド・シャザラックが玄公斎に増援として呼ばれたことを受けてこの地までやってきたようで、そのついでに野戦病院でくすぶっている天兵団たちを見舞いに来たようだ。


「今は一人でも多くの戦力が必要なようですから、私のサイバネティクス技術であなたの左足をしたいと思います」

「おいおい、まさかサイボーグ化か!?」

「はい。脚は二度と再生できなくなりますが、その代わり二度と壊れないような「高性能」になります。もちろん、お風呂にも入れます」

「よし、やろう!」


 即答だった。

 正直、鐵之助は元々自分の命すらさほど大切にしない質なので、左足が生ものでなくなることに何ら抵抗はない。


「ご協力ありがとうございます。ですが、もう一つのプランがあります」

「なんだ、もったいぶるじゃねぇか」

「左足の機械化自体は簡単なのですが、右足はまだ生身のままなので、それなりの強化しかできません。しかし、両足を完全に機械化することができれば、人知を超えた脚力を実現できますが、いかがしますか?」

「そんなことできるのか!? よし、この際だから右足もぶった切ってくれ!」

「承知しました」


「いいのかな、あれ……」


 物騒な会話を繰り広げる鐵之助とシャザラックに、軍医たちはさらにドン引きだった。


 そんなこんなで、あっという間に手術の用意が完了すると、鐵之助は残った右足も切断され、シャザラックが作った「高性能」な義足へと置き換えられた。

 ほかの四肢の一部が欠損した部下たちもまた、義手義足を装着されたことで、戦いが終わるまで戦力にならないと思われた天兵団たちは、強化されて戦線に復帰することとなった。


「これが俺の新しい……脚!! ふはは、まさかこの歳でサイボーグになるたぁ思わなかったぜ!」

「戦う前に機能説明書をよくお読みください」

「そんなの必要ねぇ、実践で使ってきゃ慣れるだろ! いくぜぇっ!!」


 鐵之助は説明書を読んでいないにもかかわらず、足の裏のブースト装置を起動させると、山のように巨大に立ちはだかるアースエンドめがけて突貫していった。


「待たせたな、鹿島中将! 第1天兵団、戦線復帰だぁぁぁっ!!」

「何!? もう戻ってきたのか!? というかなんだその足は!!??」


 野戦病院にぶち込んだばかりのはずなのに、もう戻ってきたばかりか、両脚が何やらメカメカしい鐵之助を見た綾乃中将は目を丸くして驚くばかりだった。

 そして、そこまでして戦いたいのかと心の底から呆れたのだった。


「ま、まあいいわ、今は一人でも戦力が欲しかったところなの。存分に暴れて頂戴」

「あたぼうよ! 俺たちはいつも先頭で風を受け続けることが望みだからな!」


 そう言って鐵之助は右手に装着した12式射杭砲を装填すると、部下たちとともに陣形を組みながら突っ込んでいったのだった。


「しかし……あれは確かに機械化手術だった。ということは……」

「そうです、私がやりました」

「うわっ、ロボ子博士!?」

「ロボ子ではありません、シャザラックです。この妙な綽名の元凶はあなたでしたか」


 ロボ子博士ことシャザラックが現れらということは、すなわち増援が来たことを意味する。

 今まで支援に徹していたシャザラックも、今は左腕から戦艦クラスの武装を生やしており、やる気満々のようだった。


「ずいぶんと早かったのですね。千階堂さんが手配してくれたのかしら」

「よう、鹿島さん。すぐに戦力が必要だからと聞いて、戦える奴らをかき集めてきたぜ」


 増援を連れてきたのはやはり代表委員の千階堂だった。

 彼のポータルによって遠く離れたセントラルからワープゲートをつないだことで、一瞬にして大勢の援軍を送ることができたのだ。


 そしてその戦力もまたそうそうたるものだった。

 何かあった時の為に準備していた黒抗兵団中央軍「澤瀉」を引っ張り出してきたのをはじめ、セントラルで少しでも戦えるものを募った結果集まったハンターたち、そして何より地下で反乱軍の掃討に当たっていた部隊まで到着した。


「やれやれ、本命はこちらか。やはりあの悪竜王は考えることが悪辣極まるな」

「生命の冒涜だな、これは。私怨は戦場に持ち込むべきではないが」


 「神竜の剣」を携えた墨崎智香と、骸骨の被り物の奥で目をぎらつかせるエシュ。

 地下での制圧戦を終えた彼らは、休む間もなく駆けつけてきたにもかかわらず、やる気満々だった。

 その上で、予想もしなかった人員が援軍として現れた。


「綾乃。あなただけ功績を独り占めなんて、お姉さん許さないわよ」

「げっ、紫苑ねぇさん……」


 現れたのはなんと、綾乃中将と同じようにぴっちりとした白いラバースーツで全身を覆った黒髪の妙齢の女性…………姉と呼ばれた彼女は、鹿島綾乃中将の姉、鹿島紫苑かしま しおん中将であった。

 そう、玄公斎のいた世界の日本から増援の第2陣が到着したのだ。


 しかも、その面子の中には彼女たちも混ざっていた。


「初めて……ってわけじゃないけど、初めての命のやり取りの相手がこれなんて、ワクワクするね」

Genauゲナウっ!! これだけ大きければどんな攻撃でも当てられるんじゃない? サンドバックにはもってこいだよ!」

「いやいやいやいや、あれを倒すとか正気の沙汰じゃないんですけど……」

「あらあら、久しぶりの戦場ですね。気が昂ってしまいますわぁ」


 なんと、まだ退魔士になる前の学生たちまで引き連れてきたようだ。


「まさか、子供たちまで連れてきたの!? 何考えてるの、ねぇさんも議会も!?」

「仕方ないじゃない、この子たちがどうしても行きたいっていうから」

「まかせてよ叔母さん!! あたしも異世界に行ったことあるし!」


 そう言って、紫苑の娘である鹿島唯祈かしま いのりがない胸を張って自信満々に答えたのだった。



【強化】

 第1天兵団隊長 梶原鐵之助が以下の能力を獲得


・機械化脚…

 両脚をサイボーグ化したことにより、耐久度が大幅に上昇。人の脚では踏破できないような足場でも平然と移動し、足の裏のブースターで一時的に高速移動が可能となる。

 ただし、破損してしまうとシャザラック以外では修理はできない。



【増援】

下記のメンバーが現地入り

鹿島 唯祈かしま いのり

https://kakuyomu.jp/works/1177354055352339386/episodes/1177354055385960613

千間 来朝せんげん らいさ

https://kakuyomu.jp/works/1177354055352339386/episodes/1177354055389164548

舩坂 静ふなさか せい

https://kakuyomu.jp/works/1177354055352339386/episodes/1177354055389671219

翠 摩莉華すい まりか

https://kakuyomu.jp/works/1177354055352339386/episodes/1177354055399530191

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