フロンティアの嵐作戦 18

 わかってはいるつもりだったが、実際に数値にしてみると圧倒的だった。

 「30兆」というこの世のものとは思えない耐久値――――

 これはもはや惑星一つ丸ごと破壊するに等しい値だった。

 それをわずか1万人にも満たない人数で達成するのは、ありていに言えば無理無茶無謀というもの。

 だってまともにやると400年近くかかるし。


「仕方がない、この際取りうる手段はすべて投入するのじゃ。まずはヘキサゴンに連絡、増援を根こそぎ動員するよう伝えよ」

『……よいのですか? 到着までかなり時間がかかると思われますが』

「千階堂殿からビーコンを預かっておるじゃろ。ポータルで転移してもらえ」


 まずは頭数を増やさないことには話にならないので、もしもの時に備えて本拠地で控えている本国からの増援や、可能であればさらに増派しているであろう主力をすべて投入することを決めた。

 元々これらの兵力はセントラルやクリアウォーター海岸などでもしものことがあった時(暗黒竜王の横やりなど)の備えとして待機させていたのだが、玄公斎は今が使い時だと判断したようだ。


 正直なところ、衛星兵器ダモクレス誘導のためのビーコンがあれば一番良かったのだが、このような相手が出てくるとは想定の範囲外であり、いまさら用意するのはあまりにも遅すぎるし、ビーコンを設置するのには向かない相手でもある。


「あとは全体の火力の底上げじゃな。かあちゃん、少し苦しいじゃろうがここにいるすべての者たちに「天の恩寵」による支援を行ってくれ」

「わかったわ。さすがにこれだけの人数は初めてだけど……そうね、オーバードライブを応用すれば」

「すまないな、またかあちゃんに負担をかけてしまう」

「そういうお爺さんこそ……またスクナビコナ様のお力をお借りするつもりでしょう?」

「ばれたか。いかにも、今は出し惜しみできる時ではない。なぁに、また子供の姿に戻ったとしても、取り返せばよい」


 わずか数日前にオーバードライブを使用したばかりの玄公斎と環だったが、あまりにも困難な状況を打破するためにはや無負えないだろう。

 しかし――――かつては「死奥義」と呼ばれたほど人間にとって負荷が大きいオーバードライブは、短期間に連発すると副作用が重くなる可能性があると指摘されている。

 子供の姿になってしまう玄公斎は赤子まで戻るのだろうか?

 存在が薄くなる環は、玄公斎にすら忘れられるほど存在が消えてしまうのか?

 やってみなければわからない。


『みんな、このままだと撃破までとてつもない時間がかかるわ。私が全員の能力を底上げするから、全力を出し切りましょ!』


 環が通信機でそう呼びかけると、彼女の背中から羽のようなものが生え、まばゆく輝くと、白い粒子のようなものが大量に拡散し、半径数キロメートルの範囲に散らばる味方に降り注いだ。


「おおーっ、身体が軽い!」

「これなら百人力だ!」

「しかしこれだけの範囲をカバーするとなると、環様の身体が……」


 環のオーバードライブ「傾城傾国」は広範囲を洗脳する大技だが、それを応用して効果範囲だけ広げて既存の技を乗せるというアクロバティックなことを行うことで、あちらこちらに散らばる味方たちへバフをかけることができた。

 とはいえ、限界以上の出力を出しているのも確かで、長くても1日程度しか効果が続かないだろう。

 それでも効果はなかなかのもので、徐々にとはいえ攻撃側の威力が底上げされていき、「1分ごとのダメージレート」も急激に上昇していった。


 が、これでもまだまだ足りない。

 さらなる手数を増やすため、玄公斎はまたしても禁忌に手を付けた。


「出し惜しみはなしじゃ! ワシのすべてをもってこの難局を打破する! 『毘古那所縁目録ひこなゆかりもくろく』発動!!」


 玄公斎がおもむろに手を挙げると、彼の周囲に大勢の人間がずらりと勢ぞろいした。その数はこの場に居る黒抗兵団をも大幅にしのぐ。


『おいおい、また戦か? ちょっと人使い荒いんじゃないの?』

『んなこたぁどーでもいーじゃん! 魔の物をまたぶちのめせるんだぜ!』

『――――相手にとって不足なし』


 召喚された万を超える英霊たちは、玄公斎の指示を待たずに一斉に攻撃を開始した。

 無名だが、神々に「英雄」と認められた彼らは、物量もさることながら一人一人が一騎当千の兵であり、接敵するや否や彼らは瞬く間にアースエンドの体表を削り取っていった。



「うっひょー、こりゃあ壮観だぜ! まるで花火大会のようだ!」

「派手なのはいいんだけど、私まで巻き込まないようにしてほしいなぁ。あかぎの奴もたっぷり暴れているみたいだし、私まで巻き添えで消し炭になるのは勘弁だぜ」


 アースエンドの中央部では、相変わらず包帯で要所要所を押さえつけているアンチマギアと、彼女を排除しようと襲い来るアースエンドの無数の腕を破壊し続ける仮面の少女がいた。

 玄公斎や各地の指揮官たちがなるべく彼女たちを巻き込まない方向から攻撃するようにしているが、やはり時々流れ弾がアンチマギアの近くに着弾することもある。


「大丈夫だ、姉御は俺様が死なせねぇよ(白い歯がキラリ☆)」

「ウホッ、いい女……じゃなかった、お前ばかりにいい格好させるかよ!」


 どうもこの二人は漢女オトメのようだった。


 そんな時、二人はあちらこちらの体表に小さな異変が発生していることに気が付いた。


「なあ、見ろよ見ろよ、あそこの皮膚が震えてるぜ?」

「そろそろガタが来たってわけでもなさそうだし…………うん?」


 もはや山のように成長したアースエンドの真っ黒な体表のあちらこちらが大きく震えると、震えた場所がまるで瘤のように隆起していく。

 ある程度の大きさまで盛り上がると、まるで傷口が開くように頂点がぱっくりと割れ、おぞましい牙が無数に生え始める。

 そして――――肉がちぎれるような生々しい音を立てながら、口だけが生じた瘤が体表から一斉に発射されたのだった。


「な、なんだありゃ!?」

「おい、こっちに向かってくるぞ!!」


 発射された瘤のようなものは、あちらこちらに無数にばらまかれたが、そのうちの数百ほどがUターンしてアンチマギアと仮面少女のいる場所へと襲い掛かってきた!


『キシャアアアァァァァァァ!!』

「ちくしょぉっ、まためんどくせぇっ!!」


 まるで巨大な黒いゴーヤに獰猛な口と牙が生えたような物体を、仮面の少女が真正面から粉砕していくが、一つ一つがなかなかの耐久力を持ち、少しでも拳が甘いと一撃では破壊できない。


「やべっ、一体そっちに流れた!」

「大丈夫だ、それくらいなら私にもできる!」


 アンチマギアを正面から食らいつくさんと大きく口を開ける物体を、アンチマギアは腕から包帯を伸ばしてぐるぐる巻きにする。

 そして、そのまま腕力で無理やり軌道をそらし、別の方向から向かってくる個体と衝突させて撃墜した。


「やるじゃん、包帯ダーマン!」

「だれが包帯ダーマンだ! 私だって殴り合いのタイマンが本職なんだぜ!」


 もっとも、包帯を四方八方に伸ばして自由自在に操る姿は、完全にスパ〇ダーマンそのものであったという。

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