炎の暴走超特急 前編(VS 『火の四天王』モヒカーン)
最後尾の客車の上で強い風を受けながら佇むフードの少女あかぎ。
何をするでもなくずっと地平線を見つめている彼女のところに、梯子を上ってきた墨崎智香が声をかけてきた。
「このようなところに一人で危ないぞ。友人と話したりしないのか?」
「あ……智香さん。あはは、確かに仲良くなった子は何人かいましたけど、時々話についていけなくて…………かわいいお洋服とか、カッコいい芸者さんの話とか、あたしあんまりよくわからないんです」
ばつが悪そうにはにかむあかぎ。
どうも彼女は結構人見知りする性格のようで、アンチマギアやナトワール、それにエヴレナや白埜たちとも離れた今、若干の疎外感を感じているようだ。
黒抗兵団のメンバーも、大半は元々のパーティやコミュニティ中心に集まっているので、どうしてもあかぎが割って入るのが難しいという事情もあった。
「やっぱり、変なのかな? 正直あたしは戦うことと食べることしか考えられないですし、お化粧とかも全く興味なくて。もう少し女の子っぽくなった方がいいですか?」
「それを私に聞くか…………」
そう言われると智香も返答に困った。
異世界でエリート街道を突き進んだ智香だが、男社会で抜きんでるにはそれこそ生半可な努力では足りないため、女の子が一番輝く季節――青春を、ほぼすべて自分の能力を磨くために費やしたのだ。
女を捨てているという意味では(その抜群のプロポーションは加味しないとして)、あかぎよりもよっぽど壮絶な道を歩んでいる。
ゆえに、女の子らしいというのはそもそもどういったことかなんて知りようがなかった。
しかしあかぎは…………
「だって、智香さんってこう「カッコいい大人の女性!」って感じで! すごく……こう、とにかくすごくカッコいいです! あたしも智香さんみたいになりたいです!」
「…………私などあまり参考にしない方がいいと思うぞ」
そう言いつつも、カッコいいと言われてちょっと照れる智香であった。
「あ……それよりも智香さん。あれ、土煙が見えませんか?」
「土煙だと……? …………なるほど、あれか。よしよし、どうやら私が用意した罠に引っかかった連中がいるようだ」
ここで、あかぎが地平線の先にこちらの方に向かってくる土煙を見た。
どうやら智香の思惑通り、高級品を満載しているという情報につられて、この地域を跋扈するモヒカンたちが押し寄せてきたようだ。
まだ距離は遠いが、智香がその豊満な胸元から双眼鏡を取り出すと
「おっぱい大きいと物を入れられるの? いいなー」
「ふざけたことを言うな……出したのはインベントリからだ」
あかぎに突っ込みを入れながら土煙の方向を見れば、確かに世紀末的な笑顔のままバイクでこちらに向かってくるモヒカンたちの姿が見えた。
遠すぎて声は聞こえないはずなのに、なんとなく「ヒャッハー!」という声が聞こえてきそうなくらいだ。
「あたし、おじいちゃんに知らせてくる!」
「わかった、任せる。…………総員、戦闘準備!!」
智香が先頭の機関車に負けないくらいの大声で叫んだあと、甲高いホイッスルの音を響かせたのだった。
「おじいちゃん、おばあちゃん! 敵が見えたよ!」
「来たか……! 僕……ワシ、いやもういい。僕は新入りたちの指揮をとってくる。あかぎはそのまま機関車にいる運転士に伝えてきて」
「わかった!」
あかぎは玄公斎に敵が来たことを伝えると、そのまま屋根を伝って先頭を走る機関車の運転台に乗り込んだ。
今回の作戦では、賊が来たらスピードを緩めて接近しつつ、わざと包囲させたところで兵員が一斉に客車から降りて敵を一網打尽にする寸法だった。
ところが、その作戦が根本から崩れようとしていた…………
運転台にいるベテランの運転手が、何やら必死の形相でいろいろなレバーをガチャガチャといじっていた。
「あのー、どうかしたんですか?」
「じょ……嬢ちゃん、大変だ。エンジン出力が、下がらない!」
「え……え、ええええ!?」
「今必死になってブレーキを試しているが、全然だめだ!」
なんと、原因不明の故障で機関車を動かすガスタービンが止まらなくなってしまったのだ。
あかぎは慌てて通信用の水晶を取り出すと、玄公斎に連絡を取った。
「おじいちゃん大変大変!! 機関車のエンジンが壊れて、スピードが落ちない!」
『エンジンが止まらないって!? なんてことだ、もう助からないぞ!?』
「ど、どうすればいい?」
『最悪機関車は切り離さなきゃいけなそうだね。とりあえず、あかぎと運転手はすぐに客車に戻ってきて。連結部分を僕が切断して――――』
「そ、それはだめだ! 連結部分には客車に電気と暖房を提供するためのコードが入っている! うかつに切断すると機関車が大爆発を起こす!」
『なんでそんな面倒な設計になってるの!!!???』
運転手の言葉を聞いて、通信用水晶に玄公斎の悲鳴が響き渡る。
というのも、この機関車は『pwc』とかいう胡散臭い企業から格安で購入したものらしく、しかも試験走行などもロクにしないまま運航を開始したらしい。
値段が安かったのも、命に係わる欠陥を隠したまま売ったからで、当然保証サービスは一切なし。
その不手際が、まさに最悪のタイミングで花開いたのであった。
「何とか電気系統とガス系統を隔離できないか頑張ってみる! それまで持ちこたえてくれ!」
『本当に大丈夫なのか?』
「……あと30分で急カーブに差し掛かる。それまでに切り離しができなきゃ、客車が脱線して機関車が大爆発する」
『わかった。いざとなったら先頭客車だけ切り離して、被害を最小限に抑えるからよろしく』
「ひいいぃぃぃぃ!!」
一応、先頭客車の人員を2両目以降に避難させて前を切り離せば、被害は「運転手だけ」で済む。
そうならないためにも、彼は必死で止める方法を探し始めたのだった。
「おじいちゃん、あたしはどうすれば!?」
『あかぎは墨崎さんたちと、賊どもの迎撃用意をしてくれ! ただし、あまり無理しないでなるべく客車の中で戦ってね! 屋根の上からだと落ちたら一大事だ』
「わかった!」
こうして、いつの間にか暴走列車と化した列車の中で、急いで迎撃準備が進められた。
「みんな、よく聞け! 先頭の機関車が故障してしばらく減速できない! 飛び道具を持っている人は迎撃用意! 近距離でしか戦えない人は、補充するための矢や弾丸の用意をすること! 無理はしなくていいからね!」
「けがをした人は速やかに下がりなさい。すぐに手当てをするから」
米津夫妻が迎撃樹陰日を整えさせている間にも、モヒカンたちのバイクは徐々に距離を縮めてきていた。
こちらの列車の速度は80kmほどなのに対し、モヒカンたちのバイクは100km以上出せるのだ。
「ヒャッハー! 突撃だーーー!!」
「奪え、奪え! 殺せ、殺せ! ヒャッハッハー!!」
「ワーオ! エンジョイ&エキサイティーング!! イエァ!!」
各々個性的なモヒカン頭に凶暴な棘付きパット、ごついバイクにまたがりながらいろいろな武器を振り回すモヒカンどもが迫ってくる。
そして、彼らの中からロケットランチャーが発射され、弾頭が車両の最後尾めがけて白煙をたなびかせながら飛んでいく。
が、ロケット弾は客車に着弾することはなかった。
青色の結界のようなものに防がれたからだ。
「列車が止まらないとは、誤算だった。だが、この私がいる限り心配は無用だ。黒抗兵団第1中隊『菖蒲』たちよ、ともに行くぞ!」
『応!!』
最後尾の客車の上には、すでに智香を先頭に十数人の黒抗兵団メンバーが集っていた。
※今回出演のNPC:墨崎 智香
https://kakuyomu.jp/works/16817139558648925327/episodes/16817330647861252812
タイトルに名前があるのに、ボスがまだ出てこなくてごめんなさい……
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