鉄血! 米津道場! その14
幸の救出に向かったものの、遥加が敵側に回るという想定外の事態が発生し、彼女の秘中の弓矢を猛烈に喰らってしまったことで元の道場に戻されてしまった夕陽とアンチマギア。
遥加の言う通り、二人は「振出しに戻る」となってしまった。
「畜生っ! なんなんだあれは! ついこの前までは弓を引くのにも難儀してた遥加が、いつの間にあんな離れ業を身に着けた!?」
「…………怪我はねぇな。
見た目は無傷の二人は、すぐにでもリベンジに臨みたいところだったが、懸念事項が二つある。
まず、夕陽とアンチマギアが感じているとてつもない疲労感。
おそらくあの世界で戦うということは、それだけエネルギーを消費するのだろう。このまま無策で挑みかかれば、最悪の場合衰弱死してしまうかもしれない。
そしてもう一つは、敵側に回った遥加の存在だ。
どういう原理かわからないが、遥加が放つ弓矢はまるで未来が見えているかのように、何度よけようとしても回避することができない。
「くそったれ、何回やってもあの弓矢が避けられん!」
「あの竜巻……じゃなくて矢は、一体どのような理屈で俺たちを狙っているのか。それがわからないことには遥加を退けることはできそうにない」
「しかもあの弓矢、くらうとスゲーいてぇんだ。私に対する特効があるのか!?」
あの百発百中の技と、特にアンチマギアに対しては当たった端から大ダメージとなり、動けなくなってしまう弓矢を何とかしなければ、文字通り何回やっても何回やっても「遥加ちゃんが倒せない」で終わってしまいかねない。
とはいえ、先ほどの戦いでは訳が分からないうちに撃退されてしまったので、考えただけでは攻撃の糸口がつかめない。
(体力的に、次のアタックが限界だ。次で遥加の攻撃を見切って、反撃しねぇと。それも幸がいない状態で…………)
夕陽は改めて自分の戦いがいかに幸頼みだったかを痛感するとともに、今回相手する遥加は、例え幸がいたとしても正面切って戦うのは難しい相手と言えた。
百発百中で大ダメージを受ける弓矢。そのうえ相手は、切り立った断崖絶壁で一方的に攻撃してくる。はっきり言って、現時点では勝率はほぼゼロに等しい。
「で、どうする? 今日はあきらめるか?」
「バカ言うな。俺は幸を取り戻すまで、何度でも挑む」
「だよな! お前ならそう言ってくれると信じてたぜ! で、遥加はどうやって倒す?」
「…………そうだな、話は反れるが、アンチマギアたちはたしか「
「は? 「
「ならばアンチマギアは、何かこう、生まれつき成し遂げたいものとか、野望とかがあるのか?」
「私のヤリたいことだぁ? そりゃ当然、タイマンだ! タイマンこそがあたしの生きがい! そして、タイマンに勝ってほしいものを手に入れるってわけだ!」
「なるほどな。ならば…………お前は、遥加相手に何が何でもタイマンに持ち込むことだけを考えろ」
「遥加とタイマンを?」
「これはあくまで仮定でしかないけど、あいつの攻撃でお前が大ダメージを受けるのは、あの弓矢がお前の「情念」を消失させるからだと思うんだ」
「はぁ!? どういう理屈だそれ!?」
「そこまでは知らねぇよ。けど、お前が受けたダメージと俺が感じた感覚から逆算すると、あの矢には人の「情念」を削って「集中力」を削ぐ作用がある。あの世界で食らっていい攻撃じゃないことは確かだ」
「なるほどな…………結局どうやって防ぐ?」
「さっき言ったとおりだ。お前は何が何でも気合でタイマンに持ち込め。ど根性見せろ」
「はっ! やっぱそれしかねぇよな! いいぜ、やってやんよ!!」
結局、今できることは遥加の攻撃を「気合と根性で耐える」ことしかできなかった。おそらく、それ以外にも攻略の方法はあるのかもしれないが、今はこの方法しか思いつかないのが歯がゆかった。
こうして夕陽とアンチマギアは再び覚悟を決めると、呪文で空間を切り替え――――スタート地点の境内へと戻ってきた。
するとそこは、あたり一面火炎地獄で、あちらこちらで伸びている人間のど真ん中で、あかぎがまだ戦っていた。
「うおおおぉぉぉぉ…………って、あれ!? 二人とも何でここに!?」
「あかぎ、お前まだ戦ってたのか!?」
「だって、倒しても倒しても一向に相手が減らないんだもん!!」
「マジかよ……たった一人でこれだけ相手したのか」
足止めを依頼してから、なんと今までずっと一人だけで大勢の英霊の相手をしていたというあかぎ。
実力者ぞろいの相手をたった一人で跳ね返すという強さもさることながら、これだけ過酷な戦場でも疲れを見せず長時間戦っているスタミナも驚異的だった。
(あかぎ……俺たちが無様に負けている間にも、ずっと戦ってたのか。俺もこれ以上情けない姿は見せられないな)
(オイオイオイオイ、遥加だけじゃなくてあかぎまでめちゃくちゃ強くなってやがる! 私も負けてられねぇ!)
夕陽とアンチマギアお互いに顔を見合わせ、自分らも強くならなければという決意を新たにした。
「すまんあかぎ、今度こそ遥加を倒して幸を取り戻してくるから、もうしばらく耐えてくれ!」
「私はタイマンしに行く! 誰が何と言おうとな!!」
「え、一緒に戦ってくれるんじゃないの!? っていうか遥加ちゃんを倒すってどーゆーこと!?」
『おう嬢ちゃん、つぎはあたいらが相手だ!』
『あなたは見所があるわね! この一流の退魔士である私が、挑戦する権利を上げるわ!』
『ペレストロイカ!!』
「えぇい、こうなったらあたしが一人で全員倒してやるっっ!!」
こうしてあかぎは、またしても足止めの役を担う羽目になり、延々お替りが続く増援を相手に、またしばらく大立ち回りを繰り広げることになった。
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