異世界最終決戦 10(VS悪竜王ハイネ)

Scheisseシャイセっ!! なんでこんなに悪の黒タイツ集団がいるの!? うちの国に不満があったからとか言ってたけど、だったらこの国から出てけばいいのにっっ!」

「だめよ静ちゃん。でも同じ人間なんだもの、退魔士は嫌いな人も守るのが仕事なのよ!」

「本音は?」

「簡単に自国民殺したら世界から叩かれるじゃない」

「だよねー」


 地上ではまだSSSをはじめとする退魔士たちが、黒タイツ集団XXとなり果てた一般人たちを相手に戦いを繰り広げていた。

 繊細な技を使って次々に相手を無力化していく摩莉華と対照的に、基本的に攻撃が大雑把な静は、殺さないようにするのが難しいようだ。

 それこそ、いつものように銃を乱射してしまえば、彼らはたやすく死んでしまう。

 仕方なくとった手段が銃床で相手をぶん殴ったり、テザーガンを召喚して麻痺させるなど、接近戦を挑むほかなかった。

 手加減せざるを得ない退魔士たちに対し、初めから殺す気満々のXXたちはさらにつけあがることになる。


「あいつら、ハイネ様の力の前に怖気づいているな!」

「今の俺たちは無敵だ! あいつらを皆殺しにしちまえ!」

「新しい世界では私たちが正義なのよ! おーっほっほっほっほ!」


 そんなわけで各地で暴れまわる暴徒たちは、自分たちの力に酔いしれて勝手に行動するだけで、上空で智白たちと戦っているハイネが劣勢になっていることなど知る由もなかった。

 すると、彼らの脳内に再びハイネの声が聞こえた。


『ワシを慕う者どもよ、今こそ決戦の時じゃ。この錆びついて堕落した世界の老害を討ち取り、新たな時代の幕開けとせよ』


 声が聞こえた直後…………各地にいた黒づくめの集団が、一斉にどこかに消えてしまった。


「あ、あれ? 黒タイツ軍団が消えた!?」

「これは……転移術! とすると、彼らは…………」


 目の前の敵がどこに消えたのか……摩莉華がふと上空に目を移すと、先ほどまではほぼ真上にいた巨大な竜が、徐々に高度を落としながら首都のど真ん中からやや北東の方角に移動しているのが見えた。


「どうやら、あの黒づくめさんたちは悪竜王の背中に召集されたようね」

「えっ!? じゃあ、私たちも追いかけなきゃ!」

「それは無理ね。今はにのまえ様が結界を張っているわ。それより、今は襲われて負傷した市民たちの救助に移りましょう」



 摩莉華の「勘」で判断した通り、悪竜王ハイネはこの世界で自らの信者にしたXXたちを自らの背中に召集したのだった。

 悪竜王本体をワープさせることはできなくとも、自らの眷属を強制的に呼び戻す力は一大将が張った結界を無視することが可能だった。


『悪竜王の名において命ず。わが眷属たちよ、ワシを命にかけても守りぬけ。指一本でも触れさせること、まかりならん』

「「「ヨロコンデー!!!」」」


「むぅっ、ハイネが言っていた残っている切り札っていうのはそういうことか! 想定していなかったわけじゃないけれど、厄介なことをしてくれるな!」


 今のままでは若干不利と判断したハイネは、自らの身を守るために洗脳した日本人たちを肉盾にしてきたのだ。

 かつての魔の物との戦いでは常套手段であり、そのころは人質だろうと建物だろうと必要であれば巻き込んで攻撃することもザラだったが――――魔の物がいなくなった現代ではすっかり価値観が変化してしまい、手加減なしに巻き込めば軍部の責任問題になりかねないし、ただでさえ蔓延る政治不信がさらに高まってしまいかねない。


「人質だぁ!? このリヒテナウアー様にそんなせこい手が通じると思ってんのか?」

「そうだそうだ! あいつら、俺たちに散々文句言ってきた連中だ、殺されても悔いはねぇだろ!」

「こらこら、気持ちはわかるけど彼らもまた救うべき人々には違いない。可能な限り殺さないように戦ってほしい」

「「ちぇっ」」


 こうして智白たちは、面倒なことにハイネを命がけで守ろうとしてくるXXたちを殺さないようにしながら戦わなければならなくなった。

 特にリヒテナウアーや天兵団たちにとっては非常にストレスがたまるし、あかぎも不用意に威力の高い攻撃を行えない。

 ハイネの目論見通り、智白たちからの攻撃の勢いが弱まってしまったのだった。


『今優先すべきは、あの包帯女だ。者ども、まずはあれを殺せ』

「「「ヨロコンデー!!!」」」

「おっ、なんだなんだ、モテ期到来か!? けどよ、今はデートに付き合ってる暇は、ないんだよ!」


 肉盾になるだけでなく、XXたちはハイネのバリアを消した元凶であるアンチマギアを排除せんと一斉に襲い掛かる。

 一方のアンチマギアも、とびかかってくる黒タイツ集団に対し無数の包帯を伸ばし、動きが単調な彼らをあっという間にぐるぐる巻きにした。


「おし、今だシャインフリート!」

『まっかせてー!』


 そして、シャインフリートが身体から光を放つと、包帯によって無力化された人々が黒タイツ姿から一般人の姿に戻っていった。

 あの地下での戦いと同様、シャインフリートには洗脳を浄化する能力がある。これがあれば、少なくとも向こうから襲い掛かられる心配はない。


 それでも、ハイネの眷属と化した市民は数千人以上おり、そのすべてをシャインフリートで浄化している時間はない。


「苦しい戦いだけど、ハイネを休ませてはならない」

「元帥閣下、ここは私にお任せください。このような乱戦では、私以外では苦しいでしょう」

「冷泉准将……うん、頼んだ」


 下げたばかりの悪竜王の高度が徐々に戻ってきている。

 智白が足元の巨大竜を目的の場所まで動かすためにも、ハイネ本体への攻撃は継続していかなければならない。



※作者注:どうでもいい話ではありますが…………「XX」は某TRPGを参考にしましたが、今思うと有原ハリアー様の「FFXX」と被ってしまったなと思います。

 単語の性質は完全に真逆なのに…………

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