天の死闘 地の苦闘 7(VS竜王軍)

 場面はまた変わって、玄公斎が瞑想をしている幻想郷の泉――――

 まだまだ目を覚まさない玄公斎を守るために戦うシャインフリートと、なんとしてでもここで敵の親玉の首を狙いたいドラえごんが一対一で戦い続けている。


「ああもう、しぶといなぁ! さっさと倒れちゃえよこのウスノロ!」

『お前こそさっさと帰れよっ! グリムガルテのためにも、僕は一歩も引かないんだから!!』


 ドラえごんの放つ空気弾を光魔法で相殺すると、シャインフリートは四つの大きな光の球を頭上に掲げた。

 光竜が得意とする浄光弾は、不死者はもとより、ドラえごんのような悪意と絶望で体の一部を補っている相手にはかなりの効果が見込める。


「わ……わわわ、それはっ!?」

『もう後悔しても遅いよっ! グリムガルテの前から消え去れっ! シュートっ!!』


 威勢の良い掛け声とともに4つの浄光弾がドラえごんに向けて殺到。

 ドラえごんも空気砲を放って応戦するが、威力を弱めることができない。

 これが直撃すれば大ダメージ待ったなしだが?


「……なんちゃって☆」

『あっ』


 光の球は、ドラえごんが纏っていたマントのようなもので軽々と明後日の方向へそらされてしまった。


「よーし、こうなったらこっちにも考えがあるぞー! しょうかーん、ジャジャジャジャーン! 『へいたい人形』ーーー!!」

『へいたい人形……だって?』


 ドラえごんがおなかのポケットをまさぐり、中から取り出したのは、非常に小さい兵隊のミニチュアだった。

 どことなくイギリスの赤服銃兵レッドコートを思わせる人形は、指に乗る程度の大きさしかなかったが、ドラえごんがそれらを地面にばらまくと見る見るうちに大きくなり、あっという間に人間の子供と変わらない大きさになった。

 そして、もともと小さかったのでそれなりに数があったのだが、それらが大きくなることで、気が付けばドラえごんを中心に数百体の兵士が現れたのだ。


「よーし、とつげきーーー!!」


 ドラえごんの合図で一斉に横並びの陣形をとるへいたい人形たち。

 彼らは一糸乱れぬ動きで一につくと、その手に持ったおもちゃの銃を一斉に発射してきた。


 パンパンパンと乾いた破裂音が連続し、無数の弾丸がシャインフリートに向かってくる。


『このっ!』


 シャインフリートは口からブレスを放ち、自分への直撃コースをとる弾丸を打ち落とそうとしたが、さすがにすべては迎撃できず、かなりの数の弾丸が集中した。

 しかし、シャインフリートは幼くとも竜であり、人間からすれば輪ゴムでっぽうが当たったくらいの威力しかなかった。


『ふん、全然効いてないもんね』

「ふっふっふ……そんなの分かってるさ。僕は見つけちゃったもんね! 君が隠しているものの位置が!」

『え……まさかっ!』


 シャインフリートがあわてて振り向くと、瞑想していた玄公斎の周囲に弾丸が転がっていた。

 玄公斎自体は、もしもの時に備えてグリムガルテが張ってくれた結界によって銃弾が直撃することはなかったが、それでもせっかく光の屈折でごまかしていた位置がばれてしまった。

 ドラえごんは初めからこのために、シャインフリートへの効果が薄いとわかったうえでへいたい人形に弾幕を張らせたのだろう。


「よし、そこだぁぁぁ!!」

『させるものかっ!!』


 ドラえごんは、熱線銃よりやや威力が落ちる光線銃を弾丸が散らばったあたりに向けて放つ。

 対するシャインフリートは、ほぼ瞬間移動で自ら光線銃の射線に入り、防御もしないまま攻撃をかばった。

 さすがにこの攻撃は、竜が竜に対して攻撃する威力があるだけあって、竜特効がなくともシャインフリートにまあまあのダメージを与えたのだった。


『う……痛っ!』

「あーらら、人間を無理にかばうからそんなことになるんだよー。もう諦めたら? 僕は後ろの人間さえ殺せればそれでいいからさ」

『だまれっ! 僕はグリムガルテからこの子を守るようにって言われてるんだから、命に代えても守って見せる!』

「ばかだねぇ、じつにばかだね。そもそもその人間たちのせいでグリムガルテがつらい思いをしてるのに、なんで君は命を懸けて守ってやんなきゃいけないの?」

『……え?』


 ドラえごんの意味深な言葉に、シャインフリートはふと動きを止めた。


『人間のせいで、グリムガルテが……?』

「まあまあ、少しは考えてみなよ」


(イッヒッヒ……やっぱりこいつは世間知らずだから扱いやすいねぇ)


 ドラえごんは心の中でほくそ笑みながら、後ろ手でこっそりと赤い突起が付いた黒いドーム型のボタンをカチリと押したのだった。



 ×××



(…………シャインフリート。相手に惑わされてはいけないわ、もう少し耐えるのよ)


 一方そのころグリムガルテは、強力な竜2体を相手にしながらも、しきりに戦場全体の把握に努めていた。

 ドラえごんあいてのシャインフリートだけを送り出したのは悪くはなかったが、やはり押され気味になっていることがわかると、心配が募るばかりだ。


 何より不安なのが、シャインフリートはあくまでグリムガルテが望むから玄公斎を守っているのであって、純粋におのれの意思というわけではない。

 だが、グリムガルテがこの場を離れられない以上、今助けに行くことはできない。

 おまけに、エッツェルのせいで自慢の占星術が正確性に欠けるため、この先勝機が訪れるのかどうかすらわからない。


(未来が見えないことが、こんなにも不安だなんて…………私も、自分の力に甘えすぎていた、というわけね)


 猛烈な雷と炎を防ぎながら、グリムガルテはひたすら逆転のチャンスが訪れるまで耐え抜こうとしていた。



【今回の対戦相手 その4】新ドラえごん

https://kakuyomu.jp/works/16817139557946491917/episodes/16817139557946582931

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